2014年 07月 09日
『ライオンの夢―コンデ・コマ=前田光世伝』を読んだ
少し前に一世を風靡した格闘技、グレイシー柔術。最強の格闘技といわれた柔術を駆使して戦うグレイシー一族に、その礎となる技を伝授したのがコンデ・コマこと前田光世という日本人でした。グレイシー柔術の名が広まるとともに、前田氏の名前も広まり、数多の異種格闘技戦を戦って無敗だったという神話をも流布させました。彼を主人公や、重要な人物として登場させた格闘技モノも多々発表されましたので、いよいよもって前田氏の「名声」は高まりましたね。
本書は伝説の人物前田光世の実像に迫ったルポルタージュです。
前田氏には二つの顔があります。無敵の格闘家と初期のブラジル移民を支えた篤志家というのがその二つです。今までの評伝は前者の部分にフォーカスされたものばかりでしたが、本書はどちらかといえば後者の方に紙幅を多く割いています。格闘家の半生を描いた物語を期待して購入した私にとっては少々拍子抜けの感がありましたが、前田氏が技だけではなく人格も優れた人物であり、その高邁な人格は幾多の激闘を制することによって培われた自信に裏打ちされたものだと理解すれば、すんなりと物語に入り込めます。
以前に読んだ垣根涼介氏の『サウダージ』というバイオレンス小説では、初期のブラジル移民は、当時のあぶれモノたちを集めた「棄民政策」であると断じていましたが、「棄民」とまでは行かなくても、アマゾンの厳しい自然に打ち勝てずに、流浪の身に堕ちる移民は少なくなかったというのは事実のようです。前田氏は、アマゾンに立ち向かう人々を励まし、戦いに敗れた人々には次の職を世話するなどの篤志家ぶりを発揮します。アマゾンの開拓は後に胡椒の栽培が当たって巨万の富をもたらすことになるのですが、その礎となったのは前田氏の後援でした。彼の、影になり日向になりの援助でなんとか開拓を続けることができた日本人にようやく報われる日が来たのです。格闘技の勝負のような派手さはありませんが、前田氏の一番の勲功はやはりこの移民への援助であると思いますね。
なかなか興味深い一冊でしたが、やはり格闘家としての物語も読んでみたいなって気もしています。
by lemgmnsc-bara
| 2014-07-09 19:18
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