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『異形の日本人』を読んだ

異形の日本人 (新潮新書)

上原 善広 / 新潮社

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ノンフィクションライター上原善広氏によるルポルタージュ集。腰巻きには「大宅ノンフィクション賞」(よくみると受賞第一作という文字も、ですが 笑)という文字が躍っていましたから、それに釣られて衝動買いし、積ん読しておいたものだと思います。

上原氏の「専門分野」は被差別部落の問題だそうです。江戸時代に時の為政者の政策によって生み出された、まさにいわれなき差別なのですが、それでも「普通」の日本人からはまだまだ色眼鏡でみられてしまう「異形」の人々ですね。

上原氏の「異形」を見つめる視線は被差別部落だけではなく、人間社会にくまなく注がれています。そしてそこから見いだされた「異形の日本人」が6人紹介されています。

私が特に印象深かったのは二名。

一名は一時期日本の槍投げの第一人者だった溝口和洋氏。

私の勝手な思い込みですが、陸上競技のアスリートというのは非常にストイックなイメージがあります。自分の適性なウエイトを維持し、かつ競技に必要なエネルギーはしっかり備蓄しておくためにしっかりと計算された食事を摂り、休養も含めたトレーニングを黙々と続ける、というものです。まあ、走ることが嫌いな私にとっては、あんな単調で苦しいことに耐えられること自体が不思議でしたね。

溝口氏はそのイメージからは見事に外れています。もちろん、記録を伸ばすためのトレーニングはそれこそ過酷なまでに突き詰めていたそうですが、当時の陸上界の理論とは全く正反対の考え方だったそうですし、酒もタバコもがんがんやる上に、食事も管理栄養士がみたら目をむくようなジャンクフードばかり食べていたそうです。いわゆる破天荒キャラですね。でも、それで一時期は世界記録の保持者だったわけですから、誰も文句が言えない訳です。現在の彼は時折中京大学などでコーチをする他はパチスロで生計をたてているそうです。まさに異形。

もう一人はストリッパー・ヨウコ氏。

彼女はいわゆる「花電車(手を使わずに膣圧だけで膣内からさまざまなモノをとりだす芸)」の第一人者。決してマスコミなどには登場しない人物ですが、斯界では超有名人なんだそうです。

一番の持ち芸は膣内から可燃性の液体を放出し、火に吹きかける「火炎放射器」。ここまでくると、エロチックというよりはむしろアクロバチックと言った方がよい「芸」ですね。己の肉体を酷使してゲテモノ扱いの芸を磨く…、「リアクション芸人」たちにも見習って欲しい心構えです。

彼女はこのルポルタージュ上梓の時点ですでに40歳を超えていたそうで、すでにカラダはボロボロだそうです。でも「客から見放されるまではやる」とのこと。将来、とか老後とかを考えていない刹那的な生き方は清々しくすらあります。彼女がいかにしてこのような生き方を選択したのかについては本文をお読み下さいとしか言いようがありません。

文化人類学の基本的な考え方ですが、「普通」の人間は「異形」の人間の異常さを認識することで、自分の普通さを確認し、安心します。でも「異形」と「普通」の差は紙一重。どこでどんなイベントが起こって異形視されるようになるかわかったもんじゃありません。それに異形といえど人間は人間。彼らが現在のような状況で生きるようになったのにはそれなりの理由があります。いろんな意味で人間の根源を考えさせられる一冊でしたね。
by lemgmnsc-bara | 2014-04-27 08:14 | 読んだ本

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