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『キレイゴトぬきの農業論』を読んだ

キレイゴトぬきの農業論 (新潮新書)

久松 達央 / 新潮社

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帝人というまったく「畑違い」の職業から農業に転じ、主に野菜を栽培して、料飲店、一般消費者に着実にファンを増やしていっている久松農園の経営者久松達央氏による、自ら日々取り組んでいる農業についての一冊。

つい最近まで、日本の「常民」は農民でした。江戸時代に「百姓は生かさず殺さず」という暴言を吐いた幕閣の要人がいたそうですが、見事にこの「規範」が適用され、一部の豪農を除いては、身一つを粉にして働き、清貧に甘んじるということが「普通」であるとされていました。また、年貢米という制度が徳川300年の間の納税制度でしたので、農民は自らの生産物を他人に売るということについてほとんど罪悪感に近いような意識を持たされていました。

そして農業に携わることが多数派ではなくなった現在でもこの意識は強く引き継がれています。いや、むしろ実際の農業に触れる機会が減った分、この意識は強化されると言えるかも知れません。農業従事者は「経営」ということを考えずにひたすら土と親しんで、作物を黙々と作っている、というイメージがありました。

久松氏はこの先入観を見事に打ち砕いてくれました。自らをガッツも体力もないと表する久松氏は、サラリーマン時代の経験を活かして、いかに効率的に作物を作り、また付加価値を生み出して、利益の上がる農業にするかを目指し、日々実践しています。

連作障害を防ぐための輪作、全滅のリスクを回避するための多品種少量生産など、従来の農業像とはかけ離れた方策を実行し、次々と成功させ、数々の料理人を唸らせ、一般消費者を惹き付ける野菜を作り続けているのです。

高齢者か、さもなければ職にあぶれた若者達の逃げ道としての産業ではなく、食生活を支える重要な産業としての農業を見直す、一つのテストケースとして興味深い取り組みだと思います。

もう一つ、この書の重大な主張は「有機農法」は必ずしも美味でも安全でもないということです。現在の有機農法は化学肥料を使わないということとほぼ同義語ですが、では一体何を肥料にしているのか?多くは家畜の排泄物や稲藁などの廃棄物を発酵させて作ったものを使います。この家畜の飼料となる作物は外国からの輸入物が大半を占めますが、この飼料となる作物の安全性まではほとんどトレースしていません。従って生半可な有機肥料では農薬や化学肥料の悪影響を排除しきれないのです。有機農法で栽培された野菜に安易に飛びつく事への戒めを見事に解説してくれていますね。

本当に安全で美味しい野菜とは一体どういうものなのか?折を見て一度久松農園の野菜を味わってみたいと思います。
by lemgmnsc-bara | 2013-12-09 19:22 | 読んだ本

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