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『心で見る―日本ラグビーが生んだ世界的ウイングの指導哲学』を読んだ

心で見る―日本ラグビーが生んだ世界的ウイングの指導哲学

坂田 好弘 / ベースボールマガジン社

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日本ラグビー界のレジェンドの一人坂田好弘氏の自伝。

現役時代はジャパンがオールブラックスJrを破った伝説の一戦で4トライを奪う活躍を見せるなどして、「フライング・サカタ」の名を全世界に轟かせた名プレーヤーでした。氏は現役生活の目標を「トライを取る極意を掴む」ことに置き、それを達成するために努力します。「トライするまでに相手に一切触れられない事を目標にした。ちょっとでも触れられたということは、相手が万全の体勢でタックルに来ていたら倒されていたということ」。超一流の人間だけが語りうる、「神」の領域のオハナシですね。

氏は当時としては珍しいことですが、NZに留学を果たし、NZ学生代表の一員に選ばれ、「来日」を果たすという成果もあげています。「初代」Mr.ラグビーと言ってよい「偉人」です。

現役引退後は大阪体育大学の監督として昨年引退するまで35年間指揮をとりました。早稲田・明治の実力が伯仲し、ラグビーが最も盛り上がっていた頃に、この二強に割って入る「ヘラクレス軍団」を作り上げ、明治を撃破し、早稲田にも後一歩というところにまで迫ったシーズンがありました。今でこそ筋肉トレーニングは当たり前に取り入れられていますが、週に三度筋肉トレーニングだけの日を設けて、徹底的に筋肉を鍛え上げた強力FWは、やはり強力FWが看板の明治を文字通りの力勝負でねじ伏せました。これも日本ラグビー界にとっては衝撃でしたね。

しかし、結局指導者としての坂田氏は日本一になることなく引退しました。NZでの実体験を基にしたFW重視の力勝負は最後まで頂点を極められませんでした。近年では、関東勢との対戦はおろか、関西リーグでも立命館や関西学院、天理などの後塵を拝する事が多くなっていました。FWを徹底的に鍛えることの他に、世界に通用するようなWTBを育てて欲しかったような気もするのですが…。坂田氏の後の名WTBと言われる選手はいずれも坂田氏の門下からは輩出されていません。「トライの極意」は伝授できるような類いのモノではなかったのしょうかね?

余談ですが、私は2011年にNZに大震災が起こった際に、秩父宮で募金活動をしている坂田氏ご本人をそれこそ至近距離で拝見しました。とても気のいいオジサンという感じで、とても「フライング・サカタ」と呼ばれた人と同一人物とは思えませんでした。武道の達人にも通じるような静謐さが漂っていたように思います。

大学の指導者としての役割を終えたところで恐縮ですが、もっと低年齢のレベルの指導に関わっていただけたら、と思います。坂田氏の「トライの極意」を受け継ぐ事のできるような才能を見つけ出して、是非とも第二の「フライング・サカタ」を世に送り出していただきたいものです。
by lemgmnsc-bara | 2013-08-25 07:32 | 読んだ本

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