2013年 07月 06日
『ホラー小説講義』を読んだ
私が尊敬する人物の一人である博物学者、荒俣宏氏のど真ん中の評論集。題名通りホラー小説の発生から現代像にいたるまで、その豊富な知識を駆使して解説しています。
巷間よく言われている事ですが、コミカルな作品というのはメディアを問わず「シリアスな作品」より下位にみられる傾向があるそうです。ホラー小説はコミカルな作品よりさらに下位にみられるそうです。味覚において、濃い味付けよりも淡い味付けの方が上品とされるように、笑いにせよ恐怖にせよ、ストレートに感情を歓喜させるような作品はお上品ではないってことでしょうかね?エンターテインメントとして考えた場合、生々しい感情を喚起できる作品ってのは非常に質が高いと思うのですが…。
閑話休題。もともと恐怖という感情は自分の生命が危険にさらされる状態に対する生体反応だったと思います。猛獣に襲われたり、飢餓にさらされるというのがその根源的な現象ですね。
では生物学的な危機以外の恐怖というのはいつから生まれてきたんでしょうか?
恐怖を喚起させる物語そのものは、いわゆる民話などにもみられますね。西洋社会においては神に対比させる恐怖の存在としての悪魔がいました。日本では「祟り」という恐怖を出現させる存在を神として祭り上げてしまうという風習がありました。この、恐怖を喚起させる物語を紡ぎ出すということ自体が、人間を人間足らしめている「文化」なのだと思います。人間以外の動物には本能的な恐怖はあっても「文化的」な恐怖はありません。当然の事ながら恐怖を喚起させるような物語を紡ぎ出すようなこともありません。
恐怖という感情そのものを楽しんでしまおうなどというのは高度な文化だと思います。決して細やかな感情ではありませんが、強烈な感情を喚起させる作品というのはそれだけヒトのココロに訴えかける力が強いという事です。シリアスな作品と比べて下卑ているなどとは決して言えないと思いますね。
by lemgmnsc-bara
| 2013-07-06 20:19
| 読んだ本