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『楊令伝 15 天穹の章』を読んだ

楊令伝 15 天穹の章 (集英社文庫)

北方 謙三 / 集英社

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ついに最終巻を迎えてしまった『楊令伝』。北方氏の大水滸伝第二部が完結します。

乱立する勢力の中で最強の軍事力と、その軍事力を支えるだけの兵站を整備した梁山泊軍は、ついに岳飛率いる南宋軍と激突します。しかし、ここでしばらく前の巻から張ってあった伏線が効いてきます。一方が勝って、一方が滅亡するというような単純な結末では、いままで死んでいった武将たちに失礼というものでしょう。

軍勢同士のぶつかり合いの記述は相変わらず迫力満点ですし、次世代を担うはずだったはずのあの武将が戦死してしまったり、中国全土を襲った大洪水で脇を固めて来た頭目たちが続々と水死したりと、読みどころは様々にあるのですが、やはりこの巻での一番の読みどころは、当時の一般大衆が考えていた「国」というものの形を超越したシステムを考えついてしまった楊令の思い悩む姿と、楊令のシステムを本能的に危険なものだと察知して、そのシステムを壊すために楊令を倒すことを決めた金国の姿でしょうね。

前近代的な君主制あるいは専制政治と近代的な資本主義体制とのぶつかり合いは、遥かに時代を後にして現実に起こった衝突です。「資本主義体制は目に見えるものではなく、民一人一人の心の中にあるものだ」という主旨の記述の持つ意味は重いですね。改めて今現在の我々の暮らしを支えている「共同幻想」というものを考えざるを得ませんでした。

そして衝撃のラスト。次作の主人公岳飛にはまだ楊令を倒すだけの技量はないし、乱戦の中で戦死というのもおさまりが悪い。いずれの形にせよ楊令という新時代の旗手が「旧体制」に敗れたことのメタファーになってしまうからです。ああいう結末の付け方の匂いをみじんも感じさせなかった北方氏の筆運びには「参りました」と言うしかありません。

さて、楊令なきあとの梁山泊の志は誰が継ぐのか?岳飛は楊令を、そして宋江を超えることができるのか。次のシリーズが早くも楽しみですが、しばらくはインターバルを置きたいと思います。
by lemgmnsc-bara | 2012-09-07 23:45 | 読んだ本

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by 黄昏ラガーマン
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