人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『てのひら怪談 壬辰: ビーケーワン怪談大賞傑作選』を読んだ

([か]2-5)てのひら怪談 壬辰: ビーケーワン怪談大賞傑作選 (ポプラ文庫 日本文学)

加門 七海 / ポプラ社

スコア:




先日本屋の新刊コーナーに平積みされていたものを衝動買いしました。タイトルからして、ここのところよく読んでいる、短い怪談を集めたものであろうという予想をしてました。

で、短い怪談集だというのは当たっていたのですが、800字という制限がある本当に短い怪談集だったということは読んでみて初めてわかりました。また、この本は、ビーケーワンというネット書店が10年近くに渡って開催していたコンテストの傑作選だということも…。私はこのシリーズを読むのは初めてなのですが、この形式でのコンテストは結構歴史があったんですね。残念ながら主催者であるビーケーワンが他の大手書店に買収されてしまったため、このコンテストも昨年で最後だったようです。もっと早く気づいておいて一回くらいチャレンジしてみてもよかったかな。

しかしこの800字というのは微妙な長さです。細かい設定を説明するだけであっという間にリミットを超えちゃいますから、簡潔かつ、効果的な表現で恐怖を伝えなければいけない。書き手としては結構スキルの有無が試される形式ですね。また、その短さを逆手に取って、逆に思いっきり表現を省いて、読み手の想像力にゆだねてしまうというのも一つの手です。一つ前の投稿で紹介した『”ツウ”が語る映画この一本』の中で、脳研究者の池谷裕二氏は「人間の脳というものは不自然な形に見えるものを見やすい形として認識するよう、自然にバイアスがかかる」という主旨の文を書いていますが、その説にならえば、「人間の脳には勝手に恐怖を想像する機能がある」とでも言うべきでしょうか。オハナシが唐突に打ち切られてしまった後の暗闇の中に待ち受けている恐怖は、ズバリと描写されてしまうよりよほど怖いですね。800字という制限は図らずも、この語られない恐怖を想像するのに絶妙な長さをつくりだしました。

その他、朱雀門出氏が、氏の出世作の設定をそのまま持ち込んで、日常のホンの数センチ先にある恐怖を描き出していたのにはちょっとニヤリとさせられました。素人だけでなくプロも投稿してくるくらいのレベルの高いコンテストだったのですね。つくづくと終了が惜しまれます。

この800字以内で何かを表現する、というコンテストそのものは恐怖に限らないという体裁をとって何らかの形で継続される予定のようです。詳細が決まったら是非チャレンジしてみたいですね。
by lemgmnsc-bara | 2012-08-13 21:43 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31