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『孤虫症』を読んだ

孤虫症 (講談社文庫)

真梨 幸子 / 講談社

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つい最近出ると買い作家の仲間入りした真梨幸子氏のデビュー作。俗に「デビュー作にはその作家の全てが現れている」などと言われていますが、なるほど、後の作品に見られる、女の情念とか性欲とかドロドロしたモノが見事にあらわされていました。

この作品は三つの章からなり、第一章は不幸な境遇で育った姉妹の姉麻美の視点で、後の二章は妹の奈未の視点で物語が進行していきます。

麻美は36歳の主婦。一流企業に勤める夫を持ち、高層マンションの一角を買って一般的にいう「いい暮らし」をしています。しかし、それは表の顔。裏では別にアパートを借り、そこで週三回それぞれ別の男と肉体関係を結んでいるという淫らな女でした。

ある日、麻美は下半身にむずがゆさを覚え、それがクラミジアによるものだと判断し、陰毛を全て剃るという対処を施すのですが、それでもむずがゆさと、下腹部の痛みが消えません。断続的な痛みに悩まされる中、関係していた男の一人が変死し、その母親が怒り狂ってアパートを尋ねて来ます。その死に様を聞いた麻美は自分の不快感の原因がクラミジアではないことに気づくのですが…。

裏の生活が破綻を来し始めた中、麻美の娘、美沙子が学習塾の合宿で初潮を迎え、それに対する対処をしていなかったことで男子からからかわれ、疾走した後死体で発見されます。心身共にボロボロになっていく麻美は耐え難いほどの全身のかゆみに襲われ、右の手首を切り落として残したまま失踪してしまいます。

奈未は奈未で、麻美の夫と不倫関係にありました。姉の失踪の原因を探っていくうちにわかって来た意外な事実。そして事件は意外な展開を見せますが、結末については実際の文章をお読みくださいm(_)m。

なかなかよく考えられたオチのつけ方だったと思いますが、この物語はオチを楽しむよりは、二人の姉妹が狂気と正気の間をさまよう様を味わうモノだと思います。それから、その他の登場人物たちの肉体的、精神的な醜悪さの記述ですかね。人間だれしもきれいごとだけでは生きていけないし、どこかにドロドロとしたものを抱えているというのはよく理解できるオハナシです。作者の記述は見事にそのドロドロとした部分を描き出していたように思います。

真梨氏は美大を卒業しているそうですが、美しいモノを学んだが故に、醜悪なモノを描くことに魅せられたのでしょうかね?どちらも人間の行動の結果生み出されるモノでありながらベクトルの方向は正反対ですね。しかしそのエネルギーの大きさは甲乙つけ難いですね。どちらも人間を大いに惹き付ける力を持ち合わせています。
by lemgmnsc-bara | 2012-03-28 19:50 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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