2012年 02月 28日
『耳の物語』を読んだ
開高健氏の自伝的長編小説『破れた繭』、『夜と陽炎』の二作が収められた分厚い本。前者は少年時代から出来ちゃった結婚を経て大学を卒業するまで、後者はコピーライターとして就職してから芥川賞を受賞して専業作家となりヴェトナム戦争に従軍するなどの体験を経て執筆当時に至るまでを描いています。
いや、この本、実に面白かった。一つ一つの文章表現が全部刺さってくる。本人は文中で「何かを書こうとすると、その表現はすでに誰かが使っているという呪縛に囚われて、一歩も前に進み出せなかった」という旨の文章を書いていますが、なんのなんの、創造性に満ちた表現の数々です。最初は流麗にして重厚な文章に少々恐れをなして、重い気分で読んでいたのですが、氏お得意の雲古や御叱子のオハナシが出てくるにあたり、ようやく各所にちりばめられたユーモアの隠し味を感じることが出来、最後まで熟まずに読み切ることが出来ました。
日本文学大賞を受賞した作品とのことですが、当然です。この作品に授与せずして他に授与するに値する作品等あり得ません。
改めて開高氏の文章力の素晴らしさを感じさせていただきました。それとともに、新しい表現を生み出そうとすることに対する苦しみや、鬱に苦しめられる姿には素直に共感できました。
人生に悩む人には是非読んでいただきたい一冊です!!
by lemgmnsc-bara
| 2012-02-28 18:55
| 読んだ本