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『楊令伝 8 箭激の章 』を読んだ

楊令伝 8 箭激の章 (集英社文庫)

北方 謙三 / 集英社

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前巻から、宋禁軍と梁山泊軍の激突が本格化しましたが、更にリアルに精緻にその戦いの模様を描いたのが今巻。

梁山泊軍が童貫率いる宋禁軍と激戦を繰り広げている間に、女真族が勢いを得て、北から攻め下って来ます。これも梁山泊の戦略の一つなのですが、女真族はあくまでも自らの国を打ち建てるために宋に戦いを挑むのです。功名を焦る二人の将軍と、戦いぶりはピカイチながら常に一歩引いている旧臣。しかしこの旧臣が戦いに参加したことにより、宋軍は二面から圧力を受けることとなります。兵站線が断ち切られることを理由に、宋の都までは攻め上れないことを示唆しているところも重要な記述です。あくまで宋と正面切って戦うのは梁山泊軍なのですから。

戦いの最中でありながら、肉の歓びを覚えてしまった一丈青の苦悩も描かれます。彼女は花栄の息子にして一軍の将となった花飛麟と結ばれるのですが、それも束の間、敵陣に突入して戦死します。肉体と精神の相克に耐えきれなくなったというところでしょうか。ただの理想論ではなく、人間としての生々しい生理を描いているところがリアル。せっかく結ばれた一丈青を喪った花飛麟が前巻の楊令同様、正気を失って人にあらざる精神状態のまま敵兵を斬り倒しつづけ、ついには味方三人に押さえつけられるというシーンもリアル。ただ勇壮なだけではなく、こういう悲しみの表現もこの物語の醍醐味の一つです。

今回の戦いでは、水滸伝終盤から主力を引っ張ってきた張清が戦死します。それも次なるシリーズの「主人公」となることが決まっている岳飛に首を刎ねられるという壮絶な死に様。次世代の武将たちが育っていくと同時に、旧梁山泊軍を支えた英傑たちが次々と命を落としていく…。切ないですねぇ。

梁山泊軍と宋禁軍の戦いは一進一退。どちらに転ぶかわからないという記述で読者を引っ張る辺り、憎い演出です。次巻以降も眼が離せません。
by lemgmnsc-bara | 2012-02-02 22:46 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
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