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『深く深く、砂に埋めて』を読んだ

深く深く、砂に埋めて (講談社文庫)

真梨 幸子 / 講談社

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『殺人鬼フジコの衝動』が、思いっきり心に残っている真梨幸子氏の作品。氏の作品は二作目ですが、本書もなかなか印象的な作品でした。

主人公は篠原賢一。司法試験に合格して弁護士として活動し始めたものの、精神的な疲労に耐えられずに、医者から長期休養を勧められられます。休暇を利用してパリに行くための航空機の手配で訪れた、旅行代理店のカウンターで出会った男女によって彼の運命は大きく変動していくこととなります。

男性は斉藤啓介。代理店のカウンターで見かけた翌日、殺人と詐欺の容疑で逮捕されてしまいます。女性は野崎有利子。一時期トップアイドルに登りつめながら、現在は無職。ただ、その美しさはアイドル時代よりも磨きがかかって見る人の目をひきつけずにはおれない、という設定です。

有利子には肥満した辰子という母親がべったりとくっついているという設定もあります。モデルはどう考えても宮沢りえでしょう。ご本家の宮沢りえは一時期の激ヤセなどもあって、有利子とぴったりイメージを重ね合わせるのはちょっと難しい気もしますがね。

斉藤は、自分が起こした犯罪に有利子が関与していたのではないかと疑われることを恐れて、有利子をパリへ逃がしたのですが、有利子はなぜか日本へと舞い戻り、そして収監されてしまいます。そこで篠原は有利子の弁護を担当することになります。

で、そこから様々な謎が絡み合い、そして結末を迎えるのですが、その結末を言ってしまっては作品への興味を著しく殺ぐことになるので紹介しません。

この物語は一見ミステリー仕立てでありながら、実は有利子の男を地獄に引きずり込まずにはおれない「魔性の女」ぶりを描くことが主題です。何故、自分の人生がすべて破滅するであろうことが容易に想像される「魔性の女」ってやつに男は惹かれてしまうのでしょうか?一言で言ってしまえばそれはすべて「愛」によるものなんですが、この「愛」というものの形は人それぞれであって、完璧な定義が不可能な心理状態であるから始末に追えない。愛する人の歓心をひこう、その人の望みなら何でもかなえよう。そう思うのは非常に自然な感情ではありますし、もちろん私も少ないながら持ち合わせていますが、自分の分を越えてまで尽くそうとは思いません。実際に尽くせそうもありませんけどね。

結局、賢一はすべてを投げ打って有利子と一緒に逃亡してしまいます。確実に破滅を迎えると解っているのに引き込まれてしまうこの理不尽さ。理解は出来ますが、実行は出来ないでしょうね。

そして二人はある意味、永遠の安息を得るのです。ここでタイトルがうまく効いてきます。巧妙な仕掛けですねぇ。

なんだかまた一人追いかけたい作家が増えてしまったような気がします。
by lemgmnsc-bara | 2011-10-09 12:54 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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