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『女盗賊プーラン(上下)』を読んだ

文庫 女盗賊プーラン 上 (草思社文庫)

プーラン・デヴィ / 草思社

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文庫 女盗賊プーラン 下 (草思社文庫)

プーラン・デヴィ / 草思社

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かなり以前、評論家の小沢遼子氏がラジオで激賞していたのが標題の書。文庫本のコーナーに山積みになっていたのを見て、早速衝動買いしました。プーランという一人の少女の波乱の半生を彼女からの聞き書きを基にまとめたものです。

プーラン・デヴィは最下層のカーストに属する貧しい家の次女として生を受けました。インドでは女の子はあまり喜ばれないそうです。嫁にやるときに婚資という名目で、嫁ぎ先に多額の金を払わなければいけないからです。プーランの家には女の子が計4人、そして末っ子にようやく男の子が生まれました。流産したり、生まれてすぐに死んでしまった子供も何人かいたようです。

生家のある村では、土地の相続権を巡って伯父一家からことあるごとに嫌がらせを受けます。プーランも妹も野に用足しに出かける際にその家の庭を横切っただけで手ひどく殴られるなどの暴行を毎日のように受けていました。しかし、カーストのしきたりにどっぷりと染まってしまっている父親は表立っては伯父に逆らう勇気を持たない人でした。プーランは父のことは愛していたのですが、彼の弱腰にはほとほとあきれていました。このことが後の反骨心の大本となるのですから、幼児体験というのは恐ろしい。

プーランは10歳の時に婚約し、夫となる男に無理矢理連れ去られ、そこで性的な暴行を受け、そこを逃げ出します。ここでもやっぱり父は夫となるべき男と争うことはありませんでした。父ばかりではありません。この後もしばらくは少女を守る存在は現れません。嫁ぎ先では性的虐待を受け、そこから逃げ出せば、今度は「夫がいるのに家から逃げ出した女」という存在に貶められ、女性として最低の待遇を受ける身に落とされます。保護してくれるはずの警察官たちが自ら彼女を輪姦する始末。

神も仏もないとはこのことですが、プーランは境遇に負けませんでした。一人の盗賊に救われたのを機に「反撃」に転じます。盗賊の集団に身を投じるのです。そして各地を荒し回りますが、襲うのは貧民から土地や金品を搾取して私腹を肥やしている金持ちばかり。そして奪った財は貧しい人々に分け与えます。リアル鼠小僧ってところでしょうか。必要とあれば殺人さえ厭わない「気合い」を持っているだけプーランの方が肝が据わっていますがね。

各地で略奪を繰り広げる過程で。彼女は個人的な復讐も果たしていきます。この復讐を果たしたことで彼女の心の傷が癒えたとは一言も書いてありません。復讐せざるを得ないほどに傷つけられたということなのでしょう。

プーランは彼女を窮地から救った盗賊を組織内の内紛で亡くすと、今度は自分がリーダーとなって盗賊団を統率します。弱き者の味方という姿勢は決して崩さず、仲間には「自分を女と思うな。リーダーだと思え」と宣言します。

しかし、やがて政府が盗賊の撲滅に本腰を入れ始め、多々あった盗賊団たちは次々と掃討されていきます。彼女の前には武力衝突の前に投降を勧める人物が現れます。結局は彼女は身の安全を保障することを条件に投降します。

物語はここで終わり。後に出所したプーランはインドの国会議員にまで上り詰めますが、1994年に暗殺されてしまいます。

一人の女性が運命に翻弄されながらも、しぶとく生き延び、カーストや富裕層などの権力に立ち向かっていく姿は爽快でした。どんな環境にあろうとも決して希望を捨てることなく、目の前の困難に立ち向かっていく。尊敬に値する人物ではありますが、自分に同じことが出来るかと問われれば答えはNOです。私は彼女の父親の楊にただ頭を抱えて嵐が過ぎ去るのを待つことしかできないでしょう。
by lemgmnsc-bara | 2011-09-14 20:46 | 読んだ本

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