2011年 09月 01日
『殺人鬼フジコの衝動 』を読んだ
いつだったかの衝動買いツアーの際に題名に惹かれて文字通り衝動買いしたのが標題の作。
物語は11歳の少女である主人公藤子が、両親に虐待を受け、さらにその虐待が原因で学校でもいじめをうけて心身ともに追い詰められていく姿がまず描かれます。巻末の解説に「この作者の作品を読むと体中がザワザワとした感覚に襲われる」という主旨の文章がありましたが、この表現は見事に的を得ています。なんだか本当にザワザワする感じがするんです。
藤子を救ったのは、皮肉にも殺人鬼。父母、そして妹が惨殺され、藤子も首に刃物を当てられて、切り裂かれる寸前までいきますが、生き残ります。心身に大きな傷を負った藤子は叔母に引き取られ、虐待からもいじめからも解放されます。しかし新しい環境には新しいいじめが待っていました。子供というのは感情を抑える術を知らない分、大人よりも残酷です。嫌われ、仲間はずれにされた人間がそこから這い上がるのは容易なことではありません。一度いじめに遭った藤子は、あるグループのボスである少女の歓心を買おうと様々な手を尽くしますが、ボスの要求はエスカレートしていき、やがて対応しきれなくなります。徐々に絶望に犯されていく藤子。
しかし、物語はここから意外な展開を見せます。藤子はいじめの標的になるという虎口を脱するのですが、一方で第一の殺人を犯すことになります。どんな展開で、誰が殺されたのか?殺されたのはボスではないとだけ申し上げておきましょう。
中学に進んだ藤子は学業の成績こそパッとはしないものの、大人ウケをする術を巧みに身につけ生徒会の重鎮となります。そしてその勢いで高校にも推薦入学を果たすのですが、ひょんなことから知り合い、付き合うようになった男に人生を狂わされてしまいます。誰でもはまる可能性がある、日常のほんの数十センチ先にある落とし穴。この辺のオハナシの持っていき方はホラーとか魑魅魍魎とは違ってリアルに怖いですね。男の子供を妊娠し、高校も辞めて転落人生をたどっていく藤子。その姿は彼女が一番嫌悪していた彼女の母親の姿にそっくりだったのです。
この後は、もうぐちゃぐちゃ。自分の生活を守るためにどんどん殺人を犯していく藤子。「見つからなければそれは犯罪ではない」としてほとんどの死体をバラバラにしてしまう異常さ。ああ、体中がまたザワザワ。
最後の最後、この物語は不可解な結末を迎えます。それは、藤子の一家を惨殺した犯人は一体誰なのか?というオハナシに深く関わってくるのですが、ミステリーのネタバラシは興を殺ぐだけですので、逃げ口上を使わせていただきます。これ以上は実際の文章をお読み下さいm(__)m。
心理的な描写も、実際の行動の描写も、子供の社会の描写も非常に優れていた作品だったように思います。また一人追いかけたい作家が増えちゃったかな?
by lemgmnsc-bara
| 2011-09-01 22:36
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