2011年 08月 20日
『隠された帝―天智天皇暗殺事件』を読んだ
井沢元彦氏の歴史ミステリー。つい最近別の著作で、天智、天武両天皇の争いについて読んだばかりだったんで、そのネタをどう追及して行くのかを知りたくて衝動買いしました。
物語は人気ニュースキャスター五条広臣がテロ組織に襲撃され、危うく命拾いをするところから始まります。そして、その襲撃により五条のマネージャー兼運転手を務めていた市原純が巻き沿いで死亡します。
純の祖母は甥の長谷とともに私立探偵加賀美史郎に、高額の報奨金をエサに犯人の追及と復讐を依頼します。
一方で五条は純が残した資料を元に、天智、天武を巡る謎を解き明かして行きます。この二つのストーリーがどう、絡み合うかを楽しみに読んでいるうちに、井沢氏の天智、天武両天皇を巡る考え方(二人は実の兄弟ではなく、実は天武は無理矢理皇位を簒奪するために天智を暗殺したのではないかという疑い)が自然と頭に入って来るという仕組みです。
随所に、井沢氏が常々批判している、日本の歴史学者たちの「史料至上主義」への疑問や、「象牙の塔」現象への皮肉がちりばめられています。文章の組み立てとしてはなかなか面白い展開です。
ちょっと残念だったのが、加賀美史郎というキャラクターを十分に活かし切っていないところ。まあ、井沢氏が本当に書きたかったのはサブタイトルにもある通り、天智天皇が暗殺されたのではないかという疑惑についてでしょうから仕方がない部分もあるんでしょうけど、もっとこの加賀美というキャラを躍動させて、何故五条が襲われたのかという謎にアプローチする場面を描いて欲しかった気がします。日頃、北方謙三氏のハードボイルド小説や垣根涼介氏のピカレスク小説に親しんでいると、リアルな現実感を求めるようになっちゃいますね。
で、結局天智天皇のオハナシと五条の襲撃事件は意外なつながりを見せる、という結末になって行くんですが、この関係性も今ひとつ希薄って気がしました。シンクロの仕方が微妙なんですよね。関係があると言えばあるし、何にもないと言われても納得できちゃいます。
天智天皇の暗殺説に関しては満足でしたが、ミステリーとしての完成度は今一歩というところでしょうかね。
by lemgmnsc-bara
| 2011-08-20 07:48
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