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『カミソリシュート―V9巨人に立ち向かったホエールズのエース』を読んだ

カミソリシュート―V9巨人に立ち向かったホエールズのエース (ベースボール・マガジン社新書)

平松 政次 / ベースボールマガジン社

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V9時代無敵の巨人の前に立ちはだかった大洋ホエールズのエース平松政次氏の自伝。

平松氏の代名詞といえば「カミソリシュート」。全盛期の長嶋選手の腰を引かせてしまったという、伝説の魔球ですね。以前に読んだものの本によれば「顔面めがけてフックのパンチのように浮き上がってくる」ほどの切れ味だったそうです。これでは天下の長嶋選手といえど恐怖を覚えるのもむべなるかな、というところです。「カミソリシュート」の異名は伊達ではなかったようですね。

しかしながら、私がプロ野球に興味を持ち始めた頃は、すでに平松氏は全盛期を過ぎ、「昔の名前で投げてます」的な単なるベテラン投手でした。TVで観ている限りは球もそんなに速いとは感じませんでしたし、「カミソリシュート」も鳴りを潜めている状態で、辛うじて今までの経験を活かした投球術で、なんとか試合を作っているという印象しかありません。解説者やアナウンサーが「巨人キラー」を連発するのを不思議に感じていた記憶があります。本文によれば、平松氏のシュートは全盛期はホップしながら曲がり、それから水平に曲がるようになり、やがて曲がりながら落ちていくようになったそうです。私が観ていたのはシュートが落ちるようになってしまったころの平松氏だったようですね。

オハナシは、V9巨人との対決よりも高校時代、社会人時代のことのほうに重点がおかれていました。彼は岡山東商3年のときに選抜で優勝します。毎日放課後深夜にまで及ぶ猛練習の賜物でした。この頃は練習中の水分補給はタブーとされていましたからさぞかしきつかったことでしょうね。しかも現代のように、試合後のケアをじっくりするようなこともなく、連投に連投を重ねたんですから、さぞかしカラダには負担がかかっていたことでしょうね。仮に高校時代から現代のようなケア体制が整っていたら、平松氏はもっと長く、充実した選手生活を送れたかもしれません。

面白かったのは、平松氏は最初からシュートで名を売った投手ではなかったということです。プロ入り二年目までは直球とカーブしかなく、アマチュア時代には通用した直球とカーブのコンビネーションがプロではまったく通用せず、2年間の通算成績は8勝16敗。3年目のキャンプを迎えたところで、高校時代にほんのちょっとだけ教わった投げ方でシュートを投げてみたところ、予想以上の切れ味だったそうで、それが彼の代名詞にまでなっていくのです。プロという厳しい世界でそれなりに実績を残した選手というのは、挫折を挫折のまま終わらせない強さがありますね。挫折してそのまま消えていく選手が大半でしょうけど…。壁に突き当たってそのままあきらめてしまうのではなく、なんとか工夫してその壁を乗り越える。見習いたい姿勢ですね。私は完全に挫折してますが(苦笑)。

素直な語り口で自らの経験を語っているこの本からは、あまり教訓めいたエッセンスは感じられませんでしたが、どんな場合でも目の前の課題に食らいついて克服していくしか己を高めていく道はないのだ、ということだけはしっかりと学ばせていただきました。
by lemgmnsc-bara | 2011-06-09 20:17 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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