2010年 10月 22日
『信じて根を張れ! 楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる』を読んだ
2009年の大学選手権の覇者、帝京大学ラグビー部監督岩出雅之氏が自らの指導方針を著した書。
帝京大学ラグビー部は早慶明の「噛ませ犬」、すなわち優勝候補同士が星のつぶしあいをするまえのウォームアップマッチの相手という存在に長らく甘んじていました。たまに3強に勝ってもあくまで番狂わせという扱いをされていました。しかし、ここ数年急速に力をつけ、負けたことが話題になるチームにまで登りつめ、ついに昨シーズンは覇権を手にしました。
有望選手のスカウティングにおいては、伝統校に一歩も二歩も後れを取っているであろう同学のことだから、さぞかし厳しい練習で選手たちを鍛え上げたのだろう、というのが読書前の予想。しかし、この予想はみごとに覆されました。全体練習の時間を短縮した上に個人練習の時間すら制限したそうです。ギリギリと選手たちを絞るより、適度な強度の質の高い練習を短時間で切り上げ、栄養学に基づいた食事をしっかり取り、回復のための時間を重視するようにもしたとのことでした。
こうすることによって、シーズン終盤になると、けが人が続出し、満足にチームを組めなかった集団が息切れしなくなったというのです。年初の東海大との決勝戦は競りに競った消耗戦でしたが、最後まで帝京の選手ははつらつと、しかも粘り強くプレーしていました。「休養もトレーニングのうち」とはよく言われる言葉ですが、なかなか実行できるもんじゃありません。負荷の強いトレーニングを長時間続けてこそ鍛えられるのだ、という信仰には根強いものがありますな。かくいう私自身も、トレーニングが足りないと不安を感じてしまいます。最近ではトレーニングによる向上よりも残ってしまう疲労の方に苦しめられていますがね…。
閑話休題、岩出氏はいわゆるカリスマ性のある指導者ではありません。彼は選手一人一人の言葉になるべく耳を傾け、その選手の長所を引き出すことに腐心しています。めぐまれた時代に育った今の選手たちを動かすには、ただ高圧的に上から押し付けても駄目だ、ということを身をもって知った上での指導方針です。「黙って俺について来い」式の指導法はもう通用しないんですね。
印象的だったのは、日常生活をきちんとさせたこと。きちんと挨拶することから始まって、授業にちゃんと出席すること、合宿所をきれいにすることなどなど。クラブチームでも強いチームは集合時間を守るとかだらしのない服装をしないなど、まず普通の人間としてキチっとしています。こういうところでけじめをつけられないと、ずるずると自分を甘やかすことになり、結局は自己を律することができなくなり、プレーもいい加減なものになっていくというのはよくわかる話です。プレーヤーの前にまず人間。きれいごとではなく厳然たる事実です。
今年も帝京は前評判通りの強さをみせています。筑波にはちょっとばかり苦戦(12-10)しましたがね。伝統校と対戦する後半戦が楽しみです。
by lemgmnsc-bara
| 2010-10-22 23:40
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