2010年 05月 23日
『今昔奇怪録』を読んだ
日本ホラー大賞短編賞を受賞した短編集。「今昔」という名の通り、現代の大学の研究室を舞台とした作品から、明治期と思しき時代を背景とした作品まで年代的にはヴァラエティーに富んでいます。中世や近世などの歴史物はありませんでしたがね。
まず、表題作の『今昔怪奇録』が怖い。ある地方の怪事を集めた「今昔怪奇録」というふるい和とじの本を主人公が借りてくるところから物語が始まるのですが、その物語を読んでいるうちにいつの間にか主人公自身が怪事の記録係になってしまっているところが怖い。一挙に心臓が止まるほどの恐怖ではなく後でじわじわと冷や汗が出てくるような恐怖です。知らない土地の知らないしきたりに、いつの間にか巻き込まれていて、しかも逃げることが出来ない…。怖いですねぇ。
2作目の『疱瘡婆』も怖い。出産直後の母猫が、その姿を人間に見られてしまったことで狂って、わが子を一匹残らずかみ殺すという悲惨なシーンをモチーフに、親の狂おしいほどの愛情が引き起こす、おどろおどろしい事件。ちょっぴり切ない気持ちにもさせられました。大阪出身らしい生き生きとした大阪弁の語り口には好感が持てました。
3作目の『釈迦狂い』。これは完全に現代、というよりは近未来かな?ある閉じられた空間で次第に現実と虚構の世界が溶け合い、その境界が曖昧になっていき、しかもそこから逃げ出すすべがないという恐怖。
4作目の『きも』。シンプルなタイトルとは裏腹、生物学の専門用語がバシバシ出てきます。ちょっと瀬名秀明氏の『パラサイトイブ』を思わせるような展開でしたが、短編としての完成度はこの作品が一番高かったように感じます。恐怖感が後をひきます。
5作目『狂覚(ポンドゥス・アニマエ)』。これはよくわかりません。なんだ、夢か、で済んじゃうような気もするし、もっと深読みを誘うものかもしれないし。これは怖いというより不条理でしたね。
てなわけで、各作品一言づつ感想を述べてみましたが、結論としては十分に怖かったといえますね。ホラーファンは必読だと思います。
by lemgmnsc-bara
| 2010-05-23 15:50
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