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『少年リンチ殺人 「ムカつくから、やっただけ」』を読んだ

少年リンチ殺人―「ムカつくから、やっただけ」

日垣 隆 / 講談社

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日垣隆氏によるルポルタージュ。長野県で起こった少年によるリンチ殺人事件二件について詳細に調べ上げています。

私は常々、日本の刑法はおかしいと感じていました。人一人殺しても精々15年もすれば釈放となり、罪を償ったとして大手を振って社会生活に復帰でき、一般人と変わりなく自らの幸福を追求していける…、どう考えても納得がいきません。法律上罪は償ったことになるのかもしれませんが、失われた人命は戻ってこないし、残された遺族の苦しみは永遠に続くのです。法律だけではなく報道も然り。加害者の人権には最大限の配慮がなされるのに、被害者およびその家族の人権はほとんど無視の状態です。

罪の償いって一体何なんでしょうか?目には目を、ではありませんが、人の命を奪った者に科せられるべき罪は、奪った人命と同等のもの、すなわち、罪人の命を持って贖われなければならないと思います。しかし、一方で私は死刑には反対です。「国によって命を奪って欲しいから犯罪を犯した」などという輩が増えてきたことに不気味さを感じると言うのも一つの理由ですが、最大の理由は無駄に命を奪うくらいなら、終身刑に処して生涯をかけて反省と贖罪の日々を送らせ、被害者の遺族に何らかの賠償を行うべきだと思っていることです。

少年法は更にひどい。加害者に更生の機会を与えることにばかり目が向いていて、加害者に対するケアがまったくなされていません。成人していようがいまいが、殺人犯は殺人犯です。なんで国のカネを使って、手間をかけて殺人者を更生させなければいけないのでしょう?そんなことする必要があるんでしょうか?罪は罪として確実に罰することこそが心から更生する契機となり、また犯罪の抑止力にもなると思うのですが、日本の少年法ははっきり言ってザル法です。被害者の遺族はおろか犯罪当事者の肉親ですら、裁判の内容や警察による取調べの状況などを知る方法がないんですから。この本で紹介されている一件のリンチ殺人事件の場合、15名の少年が関与していますが、実際に少年院などに収監されたのは3名だけ、残りの12名については事実上お咎めなし。通学していた学校などでの処分はあったかも知れませんが、ほとんどの少年は「普通」に高校を卒業し、「普通」の社会生活を送っています。

少年院に入れられた少年にしても、自分の両親に宛てた手紙の中で自分の親族には「迷惑をかけた」、と詫びていますが、被害者やその遺族に対しての謝罪の言葉はほとんど見当たりません。それどころか、遺族を愚弄するような言葉さえ吐いています。これのどこが更生なのか?怒りを通り越して唖然としてしまいました。著者も同じ思いだったようで「こんな手紙を外部の人間に平然と見せる両親の神経が理解できない」というような主旨の文を書き添えています。少年の両親も、「うちの子は巻き込まれただけ」だと心底から思っている様子だったそうです。ましてや、収監されなかった少年の両親をや。見舞金の金額をケチってみたり、自分の楽しみのための時間を優先させたり、まるで他人事。一旦無罪放免に近い形で解放されたのだから取材されることは迷惑だ、という意図がみえみえの親もいたそうです。先ほども書いたとおり、加害者の親族にすら情報を公開しない少年法の弊害はこんなところにも出てきています。どのような状況の下で、誰がどのようなことを行ったのかについて正確な情報を知りえないのですから、反省のしようがないですね。責任感の欠如は親族だけにその責めが帰するのではなく、少年の更生を謳って必要以上に情報を隠匿するような仕組みになっている少年法にこそその原因が求められるべきでしょう。

著者自身がリンチ殺人により30年以上も前に弟を失っているというのが、こうしたルポを書き上げる上での大きなモチベーションになったようです。少年法の不備もさることながら、自分の子供が被害者になるかもしれないという恐怖感と、加害者になるかもしれないという恐怖感が同時に押し寄せてくる内容でした。いざ、自分の子供が当事者になってしまってから法律の不備を嘆いても遅いんです。重大犯罪に関しては時効をなくす、という法改正に関する議論が高まってきていますが、のみならず、刑法の根本的な精神、すなわち更生とは何か?ということに関しても、改めて議論していただきたいものだ、と思います。
by lemgmnsc-bara | 2010-02-25 20:05 | 読んだ本

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