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『まあだだよ』鑑賞

まあだだよ [DVD]

角川エンタテインメント

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久々の黒澤作品。今回は遺作となった『まあだだよ』です。

随筆家の内田百閒氏の随筆を基に、内田氏と彼を先生と慕う大勢の教え子たちのほのぼのとした交流を描いています。『生きる』などの一部の例外を除けば、時代劇の作り手としての印象が強い黒澤氏ですが、この作品には血なまぐさいシーンは一切出てきません。飄々としたユーモアで皆を笑わせる先生と、恩師のためなら何を放り出しても駆けつける教え子たち。教育というものの一つの理想形を描いている作品だといえますね。

コメディーを意図したつくりにはなっていませんが、百閒先生の一言一言がほのぼのとしていて笑わせてもらいました。松村達雄氏という俳優は味のある脇役というイメージしかなかったのですが、堂々たる主役ぶり。飾らず、曲がったことが大嫌いで、涙もろく、しかも教え子たちには惜しみなく愛情を注ぐ、という難役を見事に演じきっていました。

前半部分は教え子たちとの交流を中心に描いているのに対し、後半部分は、飼い猫ノラに愛情を注ぐ姿と、ノラが失踪した際の落ち込み振りをユーモアとペーソス一杯に描きます。もちろんここでも彼の教え子たちは自分の仕事を放り出してまでノラの捜索に東奔西走します。結局ノラはみつからず、百閒先生は見る影もなく落ち込みますが、ノラと同じ道を通って迷い込んできた黒猫にクルツと名をつけ、この猫に愛情を注ぐことによってようやく立ち直ります。何かにつけて百閒先生の家に集まって、飲んで騒ぐ同級生4人組(井川比佐志、所ジョージ、寺尾聰、油井昌由樹)も一安心。

時は流れて、16回目の「摩阿陀会」(百閒先生の誕生日を祝う会。「まあだかい、まあだだよ」というかくれんぼの掛け合いの「まあだかい」に掛けています。まだ死なないのかという意味もこめられています)の最中に、百閒先生は不整脈で倒れてしまいます。自宅に帰った百閒先生は夢の中で幼少時のかくれんぼの際の夕焼け空を思い出している、というところでエンドロールが流れてきます。

こんな師弟関係はうらやましいなぁ、というのが第一の感想。残念ながら私には百閒先生に相当する先生はいません。高校3年時の担任の先生と、大学時代の主任教授がそうした存在に近いと言えますが、残念ながら何をおいても駆けつける、というほどの関係ではなくなってしまいました。会社の上司についても然り。殴ってやりたい奴は一杯いますが^^;。単なる技術を教えるだけではなく、その人物の持つ「人徳」が学生たちを教化し、人格形成にもよい影響を及ぼす…。理想の形ですね。いまやそんなことは絵空事として語るしかない夢物語なんでしょうか?ちょっぴり寂しい気がしますね。

内田百閒氏の随筆では『阿房列車シリーズ』が有名ですね。とはいいながら私はまだこのシリーズを読んだことがありません。北杜夫氏などが傑作であると書いていたので興味はあったのですがね。これを機に、手にとってみようかな、という気にもなりました。
by lemgmnsc-bara | 2010-01-15 19:18 | エンターテインメント

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
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