2009年 12月 21日
『恋七夜』を読んだ
今年の10月の京都小旅行の際に訪れた北野天満宮が舞台の安部龍太郎氏の時代小説。
主人公は北野天満宮の色街上七軒で北野太夫を張る芸妓の富子。この富子が、千利休付きの結師・由比源四郎に心惹かれるところから物語が展開していきます。
結師とは常人には結ぶことも解くこともできない特殊な結び目を作る役目の者のこと。鍵が発達していなかった当時はこの結びが鍵の役目を果たしていました。特に要人の茶道具を入れる袋には、毒殺予防のため必ずこの結びが用いられたそうです。また結師は毒の種類に詳しく、応急処置を施せる他、いざというときには要人を守るための武術も身につけている、という設定になっています。医療知識のある、腕っこきのボディーガードとでもいうべき役回りですな。結師は影の存在ではありますが、要人の茶の席にはかならず同席し要人を護衛していたそうです。
富子はなぜ源四郎に惹かれたのでしょう?そこには彼女の出生の秘密が絡んできます。この謎はストーリーを追いかけていくうちに解けていきます。なかなか巧妙なストーリー展開でした。富子はまた源四郎と真夫(まぶ)の契りを交わしますが、何故かその契りを結んだあとに源四郎は富子の前から姿を消してしまいます。
想いを千々に乱れさせながら日々暮らしている富子をよそに、秀吉が企画した「北野の大茶会」の開催日が刻々と近づいてきます。富子はこの大茶会の際に各地から選りすぐられた太夫たちと天神様へ奉納する舞を競い合うことになっていました。源四郎の行方が気になる上、その子供を身ごもっている富子はリハーサルで芸妓の魂ともいうべき扇を落とすという失態を演じてしまいます。
そんななか、源四郎が戻ってきます。心に、ある重大な決意を秘めて…。舞の舞台の上でその「決意」に気づいた富子は必死でその決意の決行を阻止しようとするのですが…。お約束で申しわけありませんが、これ以上は実際に読んでください。
秀吉により、天下が統一されていく時代を北野太夫という芸妓の視点で描くという手法は斬新でしたし、全編最初から最後まで、緊張がみなぎっていました。特に源四郎が戻ってきてからのスリル感は絶妙。一挙に読みきらざるをえないような迫力がありました。のみならず、この時代の世情、風俗や舞に関する知識も豊富にちりばめられていて、薀蓄本としても読み応えがあったように思います。
それにしても、歴史を彩った場所を訪れる際には、その故事来歴はきちんと調べておくもんですな。ただ上っ面だけなぞるようなお参りしかしなかったもんで、北野天満宮に秘められていた歴史上のドラマに想いをめぐらすまでに至りませんでした。旨い漬物屋の探索も重要ですが、その場所の歴史を学ぶことこそが、その場所を訪れる醍醐味なのだということを、改めて教えてもらいました。
by lemgmnsc-bara
| 2009-12-21 21:14
| 読んだ本