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『ワイルド・ソウル』を読んだ

ワイルド・ソウル〈上〉

垣根 涼介 / 幻冬舎

スコア:




ワイルド・ソウル〈下〉

垣根 涼介 / 幻冬舎

スコア:




しばらく「積ん読」山に積んでおいたのが標題の作品。先日また京都に今度は泊りがけで出張する機会があったので、移動中とホテルの部屋で一気に上下巻読みきっちゃいました。

物語は、ブラジル移民の話から始まります。終戦直後の日本は物資が圧倒的に不足していました。そこで、ブラジルに移民を送り、新しい農地を開拓してもらおうというのが表向きの日本政府の方針。ところが、移民たちに割り当てられたのは、農業には全く適さない酸性の土地。石灰などをまいて中和しても雨季の豪雨が中和した表土を奪い去ってしまいます。のみならず、伝染病などにも苦しめられ、主人公が入植した地域の移民たちはほぼ全滅します。日本政府はこうした現地の惨状を知りながら、甘い言葉で日本で食い詰めた人々を誘い出し、次々と荒れ果てた土地に送り込みます。移民政策は態のいい棄民政策だったということが語られます。

主人公の一人、衛藤は様々な紆余曲折を経て、青果の仲買人として成功しますが、日本政府に対する恨みは消えず、何とかして日本政府と移民事業にかかわった当事者に対して恨みをぶつけてやりたいと考えます。

その実行者となるのが、入植者仲間野口の遺児ケイ。彼は両親が死んだ後も入植地に一人で住み、野生児そのものの生活を送っているところを衛藤に助け出され、衛藤の実子同然に育てられます。

ケイは孤児仲間で現在コロンビアからの麻薬密輸シンジケートの日本の総元締めの松尾、衛藤が砂金獲りをしていた頃の同僚山本の両名とともに、綿密に計画を練り上げ、日本政府と、移民事業の当事者への復讐を実行に移します。国外逃亡の算段まできちんとつけて計画の実行に及んだのですが、様々なハプニングが起こり、皆が皆すんなりと国外逃亡できません。

刻々と迫ってくる日本警察。ケイら3名の運命やいかに。これ以上は読んでくださいとしかいえません。毎度毎度の逃げ口上で申し訳ございません。

登場人物はすべて人間味にあふれる魅力的な人々でした。ただのサスペンスではなく、ブラジル移民の悲劇をモチーフにしたこの作品は、かなりディープな問題意識を喚起させてくれるピカレスク小説でした。ハードな展開の割には流された血は少なかったし、結局はハッピーエンドに終わるところも読後感をすっきりとさせてくれています。なんだかコアな垣根涼介ファンになってしまいそうです。
by lemgmnsc-bara | 2009-10-12 21:38 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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