2009年 04月 20日
『ふふふ』を読んだ
井上ひさし氏のエッセイ集。『小説現代』に連載されていた45本をまとめてあります。
氏のエッセイをまともに読んだのは本当に久しぶりです。最後に読んだのは平成米騒動の時に出版された『コメの話』だと記憶してますから、もう10年以上も前になります。その前となると『家庭口論』。これは確か高校生の時に読んだはずです。小説のほうはその間結構読んでいたんですがね。
さて、標題の書は、執筆当時の時事問題から、てんぷくトリオの思い出話まで、実に幅広く様々な話題が取り上げられていました。小説や戯曲の執筆の合間に書かれたとは思えない視野の広さと饒舌な語り口。さすがに井上氏だなと思わせてくれる、充実した一冊でした。
中でも一番面白かったのは『「彼」と「男」』という章。アメリカのブッシュ大統領(当時)の無能ぶりと自分の一族への利益誘導、及び小泉首相(当時)の卑屈なまでの対米追従ぶりを読みやすい文章でずばりと指摘し、しっかりと皮肉っています。題名の『ふふふ』には失笑、苦笑、嘲笑など様々な意味が込められているそうですが、この章はさしずめ、当時の二大大国の首脳への嘲笑と、そんな無能な権力者を選んでしまった、両国民への苦笑とが入り混じっているというところでしょうか。ストレートに怒りを爆発させるのではなく、ユーモアでもって権力者を揶揄してみせる。様々な笑いを生み出してきた、氏ならではの名文だったと思います。
その他、自分の過去を赤裸々に告白した『万引き』や吉野作造とその弟を題材にした戯曲を書き上げるまでの苦労を書き綴った『紆余曲折』などが印象深かったです。
多忙な井上氏はなかなかエッセイを執筆する時間はとれないでしょうが、またこうした一冊を出版して欲しいものだと思いました。
by lemgmnsc-bara
| 2009-04-20 05:57
| 読んだ本