2009年 04月 12日
『春朗合わせ鏡』を読んだ
ここのところ久しく、日本のエンターテインメント作品を読んでいないということに気づいて「積ん読」山から引っ張り出したのが標題の本。高橋克彦氏による江戸時代を舞台にしたミステリー小説集。
主人公は無名時代の葛飾北斎である絵師の春朗。彼と、ケンカにはめっぽう強い蘭陽という元陰間の二人がコンビを組んで、様々な謎解きに挑みます。
春朗の父は現役のお庭番という設定になっていて、一介の絵師に過ぎない春朗が、なぜ謎解きの素養を持っているのか、という根本的な疑問を解消しています。しかも謎解きの過程で危うい場面に遭遇すれば、蘭陽が活躍する。頭脳の春朗と腕の蘭陽。いいコンビ設定です。
連作の中で私が一番面白いとおもったのは『父子道』です。幼いころから家庭を顧みなかった父親に対して、春朗は複雑な心情を抱いていますが、父からの、救いを求める暗号文に応じて、上州は桐生まで出かけていきます。そこで、大黒屋という呉服屋の陰謀を暴いた父の求めに応じ、その陰謀を叩き潰すためにコンビが大活躍します。その後には父と子の和解の場面が来て…。少々お涙頂戴的なストーリー展開ではありましたが、こういう展開決して嫌いではありません。蘭陽のちゃっかりとした性格がウエットだけに流れがちな物語の最後に乾いた笑いを提供してもくれています。
すべての作品が単なる謎解きに終わらずに、人情の機微を感じさせてくれるものでした。久しぶりに肩の凝らない読書を楽しめた作品でした。
by lemgmnsc-bara
| 2009-04-12 08:23
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