山本博文氏の『「忠臣蔵」の決算書』を原作とした時代劇映画。ナインティナインの岡村隆史氏と堤真二氏のダブル主演も話題を呼んだコメディ作品に仕上がっています。
戦の勝敗を決めるのは補給である、というのは古今東西の戦争を研究した上で導き出された一つの理論です。補給、つまりいかにして戦闘に必要な武器弾薬食料その他諸々の物資を調達し、兵全体に効率的に行き渡らせるか。そしてその原資となるのは当然のことながらお金です。『「忠臣蔵」の決算書』は、播州赤穂藩家老大石内蔵助の吉良邸討ち入りまでに要した費用を逐一記録していた史料を元に書かれたもの。その本を原作とした作品ですから、お家断絶後残された、限られた原資をいかに使って仇討ちにまで至ったのかをかなり細かく、かつコミカルに描いています。
堤氏演じる大石内蔵助は、かなりチャランポランで好色な人物として描かれています。細君との間に5人も子供を設けている傍で5人もの妾を抱え、江戸に上がれば、道ですれ違った若い娘をナンパしまくるし、敵の目を欺くためという理由をつけて通いつめた遊郭では、公費で散々に遊びまくります。仇討ちすべきか、それともこのまま浪々の身で自堕落に暮らすか?目くらましのためとはいえ、日々の遊興三昧で、本来の目的を見失いかけ、あたら出費ばかりがかさむ日々が続いていたところで事件は起こります。盟友にして、経理部門の最高責任者矢頭長助(岡村)が、吉良家の放った刺客の手によって、それも内蔵助と間違われて殺されてしまうのです。実際の長助は斬殺されたのではなく、重病に冒されて世を去ったのだそうですが、ともあれ、この出来事で踏ん切りをつけた内蔵助は「本気」で仇討ちを果たすために動き始めます。
しかし、仇と狙う吉良上野介も常に所在を不明にしておくという方法に出て、赤穂藩の浪士たちを撹乱します。討ち入りのスケジュールが決まらなければ、その分浪士たちを残された原資で養っていかなければなりません。食費もかかれば、酒も飲む。家賃も必要。じわじわと手持ち金は減っていく。遊興三昧の日々を悔いてみても、今更取り返しは効かない。そんな時に、ひょんなことから唐突に討ち入り日が決定します。
いざ討ち入り日程が決まってからも一波乱。最後の全員出席の会議の場で、長期にわたる困窮生活で刀を質入れしてしまったことが判明した者あり、一世一代の大戦に臨むにあたり得意の得物(槍、弓など)を所望する者あり、画面の右下に現在の残高が示され、各々の希望を叶えた場合の消費金額が差し引かれていく、という演出はなかなか面白かったように思います。同士討ちを防ぐためにはそろいの装束が必要だとか、戦力の低下を防ぐためには着込みが必要だとか、とにかく金のかかることばかり。討ち入りの前に内蔵助は金額残高との戦いという一大決戦に臨まなければいけなかったのでした。なるほど、戦の鍵は補給ですね。
話は飛びますが、豊臣秀吉にしても明智光秀にしても、実際の戦闘を指揮するよりは、合戦以前に自らの軍の兵力を高め、同時に敵方の補給線を断って、飢餓や武器弾薬の不足という事態を出来させて弱らせるという戦法が得意だったと聞きます。寡兵をもって大軍を退けるような華々しい戦いより、戦う前から相手の戦意を削ぐような戦い方こそが最上の戦い方だというのは孫子の頃から唱えられてきた戦術論ですね。
現在伝えられている史実は、意外な状況によってもたらされたというストーリーはなかなか興味深い者でした。原作もぜひ読んでみたいと思います。