トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)

山本 紀夫/中央公論新社

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久しぶりに読んだ「紙の本」。

著者山本氏は植物学の研究者から民俗学に転じたという経歴の持ち主。食品の歴史を研究し、その成果を本にまとめるためにいるようなお方ですね。というわけで、私の興味のど真ん中にもジャストミートしておりますので、いつかどこかのタイミングで衝動買いしていたのに違いありません。

よく知られているオハナシですが、トウガラシの原産地は南米です。それが欧州諸国の進出に伴い、商人の手によって持ち出され、高価であったコショウの代替品として広まり、中国やインド、韓国などを経て日本にまで伝わりました。ちなみにこれもよく知られていることですが、トウガラシは辛いものばかりではなく、ししとうやピーマンなどそのまま食べても大丈夫なものもあります。

トウガラシを多く使う料理として私が一番最初に思い浮かんだのはキムチですが、実はこのキムチが定着したのはせいぜいここ300年ほどの間だそうです。一説には、秀吉の時代の朝鮮遠征で日本兵が持ち込んだものが、韓国産トウガラシのルーツであるとのこと。意外なほどに歴史の浅い漬け物だったのですね。ちなみに韓国ではここのところ、キムチの消費量は減っているそうですし、若い年齢層には、自家製キムチをつくることを面倒くさがり、出来合いのモノで済ましてしまう人々も増えているそうです。日本でも嫁入り道具の一つにぬか床がラインナップされていた時代は遥か昔になってしまいましたが、韓国でも同じような自体が出来しているようですね。なお、現代の日本で一番生産量の多い漬け物はキムチだそうです。

中国も四川地方は辛い料理が有名ですが、ここでトウガラシが使われるようになったのは、韓国よりも100〜200年ほど後で、さらに歴史が浅い。18世紀にいたるまでトウガラシが出現する文献がないそうです。これがこの本を読んで一番意外に思ったことでしたね。

あとは、ハンガリーでパプリカとして独自の進化を遂げた一派に関する章が興味深かったですね。新婚旅行の際、オーストリアで夕食がフリーとなる日があったのですが、そこで当時のガイド氏に勧められたメニューの一つがグロールシュというスープの一種。これは和訳(でもないんですが…)するとハンガリー風スープと呼ばれるもので、パプリカをたっぷり効かせて牛肉を煮込んだものです。残念ながら、その時にいったレストランにはグロールシュはなかったのですが、このスープは欧州各国で、各言語で「ハンガリー風スープ」としてオンメニューされるほどポピュラーなものだそうです。パプリカは最近は日本でもちょっとしたスーパーに行けば手に入るようになりましたが、ハンガリーでは日本におけるミソみたいな存在のようです。

拡散の過程や年代についてはおぼろげなイメージを持っていただけでしたが、この一冊はかなり具体的に拡散ルートや各国の食文化との結びつきを解説してくれていました。なかなかためになるウンチク本だったような気がします。ついでに、トウガラシをたっぷり入れたうどんをすすりたくなりました。日本のように薬味としての使い方にほぼ限定されていたのは珍しい例だったようです。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-23 15:49 | 読んだ本 | Comments(0)

グースバンプス モンスターと秘密の書 [DVD]

ジャック・ブラック,ディラン・ミネット,オディア・ラッシュ,ライアン・リージリアン・ベル/TCエンタテインメント

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ツタヤの店頭で見かけて、ジャック・ブラックが出演しているということで借りてきてしまった一作。

予備知識まったくなしで、借りてきた作品なのですが、原作者であるRLスタインという作家は実際に『グースバンプス』というホラーアンソロジーを上梓しており、結構な売れ行きらしいです。ついでに言うとこのアンソロジーはドラマ化もされており、アメリカの人口には膾炙している作品のようです。

物語はザックという高校生が、高校の教頭である母親の転勤に伴って、ニューヨークからマディソンという田舎町に引っ越してくるところから始まります。引越し先の隣家には、やはり高校生らしきハンナという娘がいました。ハンナもザックもともにお互いを友達にしようと思うのですが、そこに割って入るのがハンナの父親(ジャック・ブラック)黒ブチの眼鏡をかけた父親はかなり厳しい口調でハンナへの接近を禁じます。

しぶしぶ引き下がらざるを得なかったザックですが、ある日、隣家から女性の悲鳴が聞こえたことにより、父親がハンナを虐待しているのではないかという疑いを持つに至ります。そこでザックは級友チャンプとともに隣家に乗り込んでいきます。そこには膨大な数の本がありました。この本たちはRLスタインの作品でした。この本のすべてには鍵がかかっており、好奇心に駆られたザックは一冊の本の鍵をはずして開いてしまいます。この本はRLスタインが不思議なタイプライターを使って書いた作品で、本を開いてしまうと中のモンスターたちが実在化してしまうのでした。というわけで、その本たちから抜け出した怪物たちの魔の手からいかにザック、ハンナ、チャンプそして作者であるRLスタインが逃げるかというのが主な内容となります。

なかでも一番の強敵となるのは腹話術師が持つ人形のスラッピー。頭が切れて、しかも神出鬼没。怪物たちのリーダーとして、町を大混乱に陥れます。ちなみにこの人形の声はジャック・ブラックが担当しているそうです。ザックたちが持ちうる「反撃策」は件のタイプライターですべての怪物たちが再び本の中に閉じ込められてしまうという結末の物語を完結させること。逃げながらも、タイプライターで物語をかきつづるという作業をスタインは続けねばならず、この逃走劇が単純なものにはならないというつくりになっています。果たして、スタインの執筆は間に合うのか?というハラハラ感を味わうのが本作の醍醐味だと思いますので、実際に作品を観てハラハラしてみてください。

魔法のタイプライターの由来来歴がまったくの不明です。なぜ、このタイプライターからつむぎだされた物語の登場怪物たちは実在化するのか?おそらく、ドラマや原作の小説の中で何度も語られて、アメリカの観衆には自明のことなのでしょう。でも日本で予備知識なしに観た私にとっては、まったくの説明不足。別にシーンはいらないから説明台詞の一つも入れて欲しかったところです。

この他、スタインが一時身を隠す場所に大きく「シャイニング(ちょっとググッてみたら、シャイニングのジャック・ニコルソンとジャック・ブラックが似ている、という意見が多数出されていました)」って横断幕が張られていたり、スタイン自身が自らをスティーブン・キングと比べて卑下する自虐ネタがあったり、スタイン本人がカメオ出演していたりと、細かなくすぐりは数多く入っていました。ホラー一辺倒でないところは評価すべき点でしたね。こういうしゃれっ気は大歓迎です。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-22 09:57 | エンターテインメント | Comments(0)

『PK』鑑賞

PK ピーケイ [Blu-ray]

アーミル・カーン,アヌシュカ・シャルマ,スシャント・シン・ラージプート,サンジャイ・ダット/Happinet

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初めて観たといって良いインド映画。題名の『PK』とは酔っ払いを意味するヒンディー語だそうです。なんの予備知識もなく借りてきてしまった一作。

ところがどっこい、案に反して、この映画、非常に良くできていました。特に、宗教をめぐり、さまざまな利害的、感情的な対立が激化している現在においては、重い重い風刺になっていたと思います。ストーリーはまず、インドのド田舎に怪しげな雲がやってきて、そこから素っ裸に首から緑色の物体を下げた男が一人現れるところから始まります。このオープニングは『ターミネーター』を連想させちゃいますね。出てきた男もシュワちゃんなみに筋骨粒々なマッチョ男。ただし、顔は二枚目半でちょっと特殊な感じです。この男は地球より60億光年のかなたにある星から来た宇宙人でした。この男はたまたま通りがかった一人の男に接近していったのですが、この地球人は緑の物体を奪って逃げてしまいます。緑の物体は宇宙船を呼ぶためのリモコンで、これがないと宇宙人は自分の星に帰れないという設定です。

場面は変わってベルギーに。ここでは一組の男女の出会いが描かれます。二人はひょんなことで知り合い、やがて恋に落ちるのですが、男はパキスタン人でイスラム教、女はインド人でヒンディー教の信者であり、この恋は道ならぬものでした。しかし、ふたりはそんなことにお構いなく結婚式を挙げようとします。花嫁衣裳を着てモスクで待つジャグー。そこに一人の少年が現れ、彼女に手紙を手渡します。そこには、家族や宗教の問題で結婚を取りやめたいというメッセージが…。これからご覧になる皆さんは是非このシーンを覚えておいてください。重要な意味を持つ伏線となっています。

傷心のジャグはニューデリーに戻り、地元のTV局でキャスターの職を得ています。ニュースのネタ探しで街中を駆けずり回る彼女の目に留まったのは、神が行方不明なので探しています、という文言のかかれたビラをまく男の姿。彼こそは冒頭のシーンでリモコンを奪われた宇宙人。彼は地球上の人間なら誰でもが「常識」としていることにいちいち疑問をさしはさみ、その疑問を解消すべく、突飛(と地球人には思える)な行動を度々やらかすので、「PK(前述のとおり酔っ払いの意)」と呼ばれています。

彼の行動は実は非常に合理的なものでした。なくしたものを探すためにどうしたらよいかを問うた人に「神に祈れ」と教えられたため、実利を求めてまずはヒンディーの神に供物をささげ、献金して祈ったがリモコンは戻ってこない。では、ということで次はキリスト教の教会のミサの最中にヒンディーの供物をささげようとして信者に追いかけられる。供物がヒンディーのものだったということに思い至り、ワインをささげようとして、今度はイスラムのモスクに入ろうとして、またムスリムたちから追いかけられる。こんな調子で、さまざまに頓珍漢なことをやらかします。この辺のどたばたが笑いどころでもあります。

次にPKはすべての神が言っていることを実践しようとします。神が言っていること実践しないと、リモコンがみつからないと思ったからです。ガンジス川で沐浴したかと思えば、教会の聖水の水槽にひたってみたり、メッカの方向に向かって祈ってみたりもします。でも結局リモコンは手元に戻ってきません。この辺は宗教に対しての見事な皮肉になっていますね。世に敬虔な信者はたくさんいて、それぞれの神にそれはそれは熱心に祈りをささげ、わが身を犠牲にしたり、金を喜捨したりしていますが、肝心のご利益というやつは目に見える形では、まず帰ってきません。ただ、心の平安というある種の自己満足をえるためだけの行為が「信仰」ではないのか?この問いに関して、真っ当な答えを返せる人は誰もいないでしょう。いかに身も心も神に捧げつくしても、爆弾テロに遭えばむごたらしく死んでしまう。この世の矛盾を完全に説明しつくす神はいない。深いオハナシですねぇ。最初は笑ってましたが、主題があらわになるにつれ、考えさせられることが多くなって、笑ってなどいられなくなりました。

ストーリーの結末のつけ方は、『男はつらいよ』っぽくなっています。これはこれでなかなか効果的だったのではないかとも思います。ヒロインがハッピーエンドを迎える一方で、主人公は涙を隠して新しい方向に道を見つける。いかにもな結末ではありますがね…。

その他インド映画の特色である、意味のない踊りのシーンもいくつか挿入されていました。踊ってる人たちは、華麗という表現にはそぐわないものの、達者でコミカルな動きをしてました。全員集合における志村けんの持ちギャグみたいなもんで、踊りのシーンをいれないとインドの観衆の皆様は満足しないんでしょうね。また、他の国ではなかなか理解しにくいヒンディー教がもっともメジャーな宗教で、その他の宗教もすべてが入り混じるという風土的な背景を持つインドだからこそ作れた作品だという気もしました。ちょっとググッたら、国際的なコンクールではたいした賞は取っていませんが、小さなコンクールではちょこちょこ賞をとったりもしているようです。なかなかの佳作でした。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-22 09:46 | エンターテインメント | Comments(0)

『ザ・ギフト』鑑賞

ザ・ギフト[Blu-ray]

ジェイソン・ベイトマン,レベッカ・ホール/バップ

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人は一人も死なないし、血もほとんど流れないサイコサスペンスホラー。

サイモンとロビンの夫婦はサイモンの郷里の街にシカゴから引っ越してきました。引越し先は大きくて豪華な邸宅。サイモンの収入が高いことが示されます。

ショッピングセンターで買い物をしていた二人の前に現れ、サイモンに声をかけてきたのはゴードという男性。サイモンは最初誰だかわかりませんでしたが、やがてゴードが高校時代の友人であることに気づきます。親しげな会話を交わした二人は再会を約して別れますが、ゴードはすぐさま引っ越し祝いのワインを持参して夫妻の家を訪問します。ワインのお礼にとロビンはゴートを夕食に招待しますが、サイモンはあまりいい顔をしません。

その翌日、玄関先には何故か魚の餌が…。いぶかしがる二人ですが、邸宅の池には立派な鯉が何匹も放たれていました。この辺で少々不気味さが漂います。このゴードという男が、映画の題名どおり、次々と一方的に贈り物を贈りつけてきて、拒否したとたん、一気に憎悪の塊となって、夫妻に襲い掛かる、というストーリーを予想したのですが、その予想は完全に裏切られます。もっともっと話は複雑でした。

ゴードはロビンが一人でいる時に頻繁に家に出入りするようになります。ここでサイモンはゴードの狙いがロビンにあるのではないかと疑いを持ち始めます。ゴードは次に夫妻を夕食に招待します。せっかく招待したにもかかわらず、いきなり、急な電話がかかってきたという理由でゴードは外出してしまいます。この不可解な行動に際し、サイモンは高校時代にゴードは「不気味のゴード」というあだ名で呼ばれていたということを思い出します。普通は最初にそういうあだ名から思い出すんじゃねーのかよ?というツッコミを入れたくなるのですが、まあ、ここはゴードの不気味さを高める演出だと理解しておきましょう。戻ってきたゴードにサイモンは二度と夫妻に近づくな、という警告を発してゴード家を後にします。しかしゴードからの贈り物攻撃は止みませんでした。

たまりかねて、招待された家に乗り込んでゴードとサシで話をつけようとしたサイモンですが、その家はゴードのものではなく、別の夫婦のものでした。さらに、池の鯉がすべて死んだり、夫妻の飼い犬が行方不明になったり、ロビンがいきなり意識不明になったり・・・。いかにもゴードがサイコパスなんじゃないか、って思わせる作りなんですが、繰り返し言います。お話はそんなに単純じゃありません。

サイモンのゴードに対する態度に不信感を抱いたロビンはゴードについて調べ始めます。するとそこには驚愕の事実が。ゴードは高校時代に上級生から性的暴行を受けたという事実無根のうわさをサイモンに流され、そのことが原因で、その後の人生がめちゃくちゃになってしまっていたのでした。いかにも、な展開を一気に逆転するストーリー展開にはうならされましたね。映画の中でも語られる箴言に「君は過去を忘れるが、過去は君を忘れない」というのがありましたが、その通り。自分自身はたいしたことのないおふざけをやったつもりしかなくても、それを仕掛けられた本人には重大な結果をもたらしていて、しかもそのことに仕掛けた本人はまったく気づいていない。わが身を振り返って考えてみても、こういうことで、知らぬは本人ばかりなりという恨みを買っている可能性は多々あります。心当たりがありすぎて見当がつきません…。これがこの映画を観て感じる最大の恐怖でした。

さて、ストーリーは実は本当の悪人はサイモンだ、という論調で後半部分が進んでいきます。ロビンからゴードへの謝罪を求められていながら、実際には謝るどころが暴行を加えてみたり、会社では、出世争いのライバルの不正をでっち上げて蹴落とそうとしてみたり・・・。こんなサイモンに愛想をつかしたロビンは、子供を生んだ後にサイモンとは別の道を歩もうと決意します。

で、ここに最後の、恐怖に満ちた謎が発生します。そしてその謎の答えは示されません。消化不良というべきか、後々まで残る余韻というべきか…。私は後者を採りたいと思います。もっとも愛した人間と愛するはずだった人間を疑わなければならないという情況こそ人間にとってもっとも恐怖すべき情況ではないでしょうか?期待せずに観た作品ですが、なかなかいろいろ考えさせられました。佳作です。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-22 09:24 | エンターテインメント | Comments(0)

『マリアンヌ』鑑賞

マリアンヌ ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

ブラッド・ピット,マリオン・コティヤール,ジャレッド・ハリス,リジー・キャプラン,マシュー・グード/パラマウント

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第二次大戦下の秘密工作員とフランスのレジスタンス女性との恋を描いた作品。

カナダのケベック生まれでフランス語が少々話せるマックス(ブラッド・ピット)はモロッコでナチス要人の暗殺を命じられます。その要人に近づくためには、社交界に顔を売っておく必要がありました。で、夫婦の相手役として選ばれたのがフランスのレジスタンス闘士マリアンヌ・ボーセジュール。夫婦役を演じた二人は、首尾よく任務を果たします。

この任務が二人にもたらした思わぬ副作用は、真実の恋。様々な人々の反対にあいながら、それゆえ燃え上がった恋は最後には結実し、二人は結婚することとなります。やがて空襲の夜に娘アンが生まれ、三人で幸せな暮らしを営む毎日が続く、はずでした。

しかしながら、ここで幸せに終わってしまっては、単なるブラピの顔見せ映画なってしまいます。マリアンヌは軍の上層部からドイツ軍のダブルスパイであるという疑いをもたれていました。軍の関係者しか知り得ない秘密事項が、マックスの家族の住むすぐ近くの地域から発信されていることが証拠としてマックスに提示されます。最愛の妻が敵国の、それももっとも蔑まれるべきダブルスパイとは…。しかも、軍の偉い方は、マックス自身にマリアンヌの処刑を命じるのです。

マックスは当然のことながら、任務と愛情のはざまを激しく揺れ動くこととなります。疑惑は本当なのか?マックスは様々な方法を用いてその謎の真相に迫って行こうとします。しまいには軍規を犯してまで、自らフランスに渡り、マリアンヌと実際に逢ったことのある人物に確認をとりにいくのです。そこで得た一つの確認方法は「マリアンヌはピアノを上手く弾く」ということでした。

イギリスに戻ったマックスは、マリアンヌを昼間の酒場に連れて行き、ピアノを弾いてみろと迫るのですが…、というところでほぼネタバレですが、あらすじの紹介を終えようと思います。この後の展開はぜひとも実際の作品をご覧下さい。

自らの愛情と、国を守るという大義の間で揺れ動き、なんとか妻を守ろうとするマックスは一途という言葉がピッタリ来る行動をみせますが、その行動をブラピは上手く演じていたように思います。今に至るまで、世界史上の最大の敵役であるナチスドイツという巨悪と戦うよりも自らの愛に生きようとしたのですから、その真剣さは平和な時代に生きる我々にはなかなか想像しにくいことですが、その心の内を推測出来るまでにうまく具象化してくれていました。大義なのか愛なのか?現代に生きる多くの人は愛を選択すると思いますが、選択した後にそのために具体的に何をどうすべきか?この問いに答えを出せる人間はそうそうはいないと思います。

ツタヤでまとめ借りをする際に適当に選んだ一枚でしたが、なかなかの佳作でした。


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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-16 06:25 | エンターテインメント | Comments(0)

岳飛伝 七 懸軍の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝の7巻目。『大水滸伝シリーズ』全体としては終盤ですが、『岳飛伝』に限って言えばちょうど中間点あたり。今巻には戦闘シーンは全くなく、三つの勢力が来るべき「決戦」を見据えて、それぞれに力を蓄える姿が描かれます。

軍功多大だった岳飛を「処刑」(実際には岳飛は逃亡)した南宋は、宰相秦檜が中心となって、かつての宋の栄光を取り戻そうとしますが、内憂外患を地でいく状態。講和がなったとはいえ、いつその状態が破綻してもおかしくない金国、武力でいえば三勢力の中で随一の梁山泊軍が間接的なプレッシャーをかけている上、国内では岳飛亡き後最大の軍閥となった張俊軍の処遇が悩みのタネに。さらに皇帝の座を狙って、死に絶えたはずの青蓮寺勢力までもが暗躍し始めるのです。いやはや。フィクションとはいえ、某国の首相が同じような状況に放り込まれたら、病気を理由にさっさと逃げてしまいたくなるであろう状況です。

金国はリーダーである耶律大石の死期がいよいよ迫り、世代交代を迎えています。その中では梁山泊軍の一員であった、韓成の動きが気になります。前首領の楊令からの関係性を踏まえて連携する方向に向かうのか?それともあくまで単独で中原に覇を唱えようとするのか?これも三勢力の力関係が刻々と変化する展開の中では非常に読みにくい、それゆえハラハラさせられる状況です。

さて、我らが梁山泊軍はというと、「本社」である梁山泊の山塞にいる宣凱が組織としての機能を統制してはいますが、ますます「国」としてのカタチは拡散し、希薄化していっています。各人の心の中に「志」がある限り、どこでどんな形態であろうとも梁山泊という「国」はあり続ける…。現代における「国家」という枠組みすら超えているような概念です。

一方で秦容が南方の地で進めている農地の開拓が軌道に乗り始め、十万人の人間が住む街を作り上げるというプロジェクトが走り始めることとなります。甘藷糖を作るために、当時としては最新・最高の設備を作り上げ、そこに従事する人々がきちんと生活して行く施設と仕組みを作り上げる。物々交換が基本だったこの地の経済活動に通貨を導入する。生活用水の手配から下水の処理まで。元々が武の人であった秦容は、こうした活動も一つの戦いだと心得て、一つ一つの問題と向き合います。人々が安定した暮らしを営むための手段は、武力による統一だけではない、という主張がはっきりとわかる表現方法ですね。

主人公の岳飛は秦容が巨大な街を作ろうとしている地域に近い場所で、やはり新しい街を作って行こうとしています。軍の将であった姚明とともにたった二人でたどり着いた地でしたが、岳飛を慕う兵士たちがボチボチと集まりだし、今巻の終了時点では300人ほどの人員がいました。この仲間たちは新しい国作りを目指すのか?それともあくまでも軍としての復活を企図するのか?当事者同士は否定していますが、梁山泊への合流はあるのか?

あらゆる疑問と期待が提示された一冊でした。次巻の電子書籍化が待ち遠しい限りです。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-14 20:02 | 読んだ本 | Comments(0)

無私の日本人 (文春文庫)

磯田道史/文藝春秋

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映画『武士の家計簿』の原作者、磯田道史氏の中編集。三つの作品が収められています。この中の『穀田屋十三郎』という作品が映画『殿、利息でござる!』の原作となりました。

作品は他に『中根東里』、『大田垣蓮月』の二つ。三つの作品とも主人公の名前をそのまま題名にしています。名は体を表す、ではありませんが、各人の人生を見事に描ききっている三作は別の題名をつけようがないってな気がしますね。

さて、この三名が三名とも、歴史好きを辞任する方々でも「?」がついてしまう人物だと思います。それもそのはず、この方々、なにか素晴らしい業績を残した人物たちではなく、あくまでも市井の「無名な」人達です。ただし各々の生き方は非常に興味深い、ドラマチックなものでした。身分制度のあった江戸時代において、藩主にカネを貸し付けてその利息を毎年もらうことを実現させた穀田屋十三郎に、とにかく本を読むことを好み、儒学者として有り余る知識を持ちながら一切表舞台に立たなかった中根東里、幼少の頃から何をやらせても一流で、絶世のと称されるくらいの美貌を持ち合わせたスーパーレディながら、その生活は決して幸福ではなく、晩年に作った陶器が非常に優れた品質であったため、「蓮月焼き」としてわずかに名の残る大田垣蓮月。無名故に史料も乏しく、物語を紡ぎ出すには多大な労力を要したであろうことがうかがわれます。

主人公たちの生き方に共通するのは、自らの身を犠牲にして、その信じる道を突き進んだこと。そしてその信じる道を歩む道程において、その真心が周りの人々を動かし、大きなムーブメントを巻き起こしたこと。本人たちは決して裕福な生涯を送ったのではないことです。

作者があとがきで書いている通り、こうした人々の姿は、経済優先で「カネを持ってる奴が一番エラい」とする現実社会で息苦しさを感じている我々の心を一時の間、清々しくしてくれます。こうした無名の人々が持ち得ていた清浄な心持ちをいつ日本人は失ってしまったのでしょうか?経済の発展以上の損失は日本人からこうした美風が失われたことだと説く、作者の言葉はあまりにも重いですね。清々しくてやがて悲しき中編集。心がめげている人にオススメしたい一冊です。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-09 19:57 | 読んだ本 | Comments(0)

『パイレーツ・オブ・カリビアン5/最後の海賊』

当家としては珍しく、上演初日に観に行ったのが標題の作。まあ、とある地方の都市に投宿し、そのすぐ近くにシネコンがあったからってのが最大の理由なんですけどね。

ジャック・スパロウ船長の今回の敵は、スペイン海軍の兵の幽霊たち。船長であるサラザールをハビエル・バルテムが演じています。この配役はなかなかにフィットしていたように思います。彼は、あの『ノー・カントリー』で演じた不気味で冷血な殺し屋を彷彿とさせる迫力を感じさせる演技でした。こちらの作品はファンタジーなので、ややその重厚さがクドかったというのも事実ですが…。

さてこいつらには海賊たちの武器は全く通用しません。なにしろ、もう死んじゃってる訳ですから、銃で撃とうが、剣で切ろうがすべてが彼らのカラダを素通りしていってしまいます。逆に彼らの持つ剣や大砲は有効なので、生身の人間には勝ち目はありません。まあ、言ってしまえば、この辺はゾンビ映画と同じ作り。ゾンビ映画の場合、ゾンビとの意思の疎通ははかれないし、ゆるゆると迫ってくるんで、いかに逃げ切るかが焦点となる訳ですが、こちらの亡霊たちは、海の上ならどこへでも瞬時に現れるし、恨みつらみをさんざん海賊にぶつけてきます。その恨み骨髄の相手がジャック・スパロウであるというわけです。

そのジャック・スパロウは毎日毎日飲んだくれているばかりで、部下たちに愛想を尽かされ、ひとりぼっちになってしまいます。おまけにイギリス海軍に捕らえられ処刑台にかけられて、ギロチンを落とされる寸前までいきます。そこでかつての盟友であるウィル・ターナー(彼も一種の死者なので、海全体を覆う、成仏できない呪いの対象です)の息子ターナーが乱入し、この作品の特色の一つである、コミカルで派手な戦闘シーンが繰り広げられ、間一髪で助かることとなります。ジャックと一緒に絞首刑にされるはずだった女性天文学者(魔女の疑いがかけられていました)カリーナもそこで助かり、3人でこの呪いを解くことのできるツールである「ポセイドンの槍」を探す旅に出ようとするのですが、ジャックには船も部下もいません。

そこに現れたのがジャックのライバル、バルボッサ。ジャックは彼の助力を得て、謎を解きながらポセイドンの槍を探す旅に出る、というのが主なストーリー。もちろんそこにはスペイン亡霊海軍との戦いも盛り込まれます。で、これ以上はネタバレとなってしまうので、お約束の逃げ口上。実際の作品をご覧下さい。

5作目ともなると、若干のマンネリ臭はどうしても漂ってしまいますが、その分を差し引いてもなかなか面白い作品であったと思います。最後の結末のつけ方が、私にとってはあっけなさ過ぎではありましたがね。





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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-09 12:17 | エンターテインメント | Comments(2)

クレムリン秘密文書は語る 闇の日ソ関係史 (中公新書)

名越健郎/中央公論新社

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時事通信の特派員として世界を股にかけ、とりわけ旧ソ連の事情に精通した著者名越氏による、日ソ関係の歴史を解き明かした一冊。かなりきわどいことが書いてありました。

旧ソ連の末期、ゴルバチョフ政権下の時代にグラスノスチ(情報公開)という政策が採られ、分厚いベールに包まれていたソ連の歴史を語る文書が一斉に公開されました。日ソ関連の書類もその例外ではありません。第二次大戦の際に、事実婚の夫とともに日本からソ連に逃げて行った女優岡田嘉子氏のソ連での生活ぶりを記した文書から、日本共産党、日本社会党への資金援助の実態。そして安倍首相がプーチン大統領にいいようにあしらわれ、プーチン大統領のことをファーストネームである「ウラジミール」と呼んだことくらいしか話題にならなかった北方四島返還交渉の歴史に至るまで、日ソの間に横たわる虚々実々の駆け引きがかなり詳細に語られています。

日ソ両国間の歴史を語る際にどうしても避けて通れないのが、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して北方四島を強奪したことと、日本人のシベリア抑留でしょう。ソ連は、敗戦目前の日本の弱体化に乗じて、念願の不凍港獲得のために北海道の北半分を獲得しようと画策していたらしいのですが、アメリカの強硬な反対によってその夢はかなわなかったそうです。そこで、せめてもの「補償」として大量の日本人を抑留して、厳しい条件下での開拓、開発に従事させたのだそうです。大国間のパワーゲームのとばっちりを受けて辛酸をなめた皆様は心から同情申し上げます。こういう方々の苦労を礎として今の日本の繁栄があるのだということを忘れてはいけないな、と改めて思わされる史実です。毒蝮三太夫師匠の姿を見習わなければなりません。くたばり損ない、とか言っちゃいけませんが(笑)。

あとは、やはり、日本共産党、日本社会党との関係が興味深かったですね。米を筆頭とする西側諸国の一翼として経済発展を遂げている日本に、なんとか左派思想のくさびを打ち込みたいソ連から、上記の両党への多額の資金援助があったということを始めて知りました。こうした左派勢力への資金援助は何も日本に限ったオハナシではなく、東欧諸国などの左派政党にもかなりの資金援助があったようです。自国内に兵器をため込むだけではなく、各国での左派勢力を支えるためにカネを使っていたというわけですね。自民党が選挙前に候補者たちに資金をばらまくようなもんでしょうか?結局いつの時代でもどこの国でもモノを言うのはオカネなんですねぇ。単純ながら重い真実を突きつけられてしまいました。

ソ連崩壊後のロシアは冷戦当時のような求心力を持ち得ていませんが、まだまだ世界の一つの極であるのは事実です。英国のEU離脱は親ロシア派の国々の力が強くなるのではないかと言われていますね。日本とロシアの間には北方領土の問題が依然として横たわっています。そしてこの問題があり続ける限りは鈴木宗男氏のような政治家も存在し続けるでしょう。まだまだ世に出ていない秘密文書はたくさんありそうですね。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-01 08:08 | 読んだ本 | Comments(0)

エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話 (幻冬舎新書)

下川 耿史/幻冬舎

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日本史の薀蓄本。神話の時代から近代にいたるまで、日本人の行動に「性」、というよりこの本の論調からすると「エロ」の要素がどれだけ関わってきたのかを、さまざまな文献や史実を基に記しています。

日本の歴史はイザナギとイザナミがそれぞれの「なり余れるところ」と「なり足りぬところ」をあわせることにより始まったとされています。そして、そのあわせる作業の仕方がわからなかったので、セキレイの行為を真似ることでなんとか国産みに至ったというのが最初のエロ要素。ずいぶんと牧歌的だったんですねぇ。

しかし、一旦国ができ、人間が集団で生活し始めると、一気にエロ要素が強くなっていきます。明治の初めくらいまでは、公衆浴場はほぼすべて混浴だったそうですし、盆踊りは、祭りの夜の乱交パーティーの名残です。これも明治の初期に、警察が取り締まるようになるまでは、実際に乱交が行われていたようですね。その他、東北の田舎のほうでは男性が童貞を捨てるのは、人妻に夜這いをかけていたすことが一般的だったり、ちょっと財力に余裕のある人物が妾を置くなどの行為もつい最近まで(後者については現在でも)「常識」だったそうです。おおらかなのか不道徳なのか?私個人としてはポジティブに捉えたいと思います。社会全体にこういうあいまいさを認める空気があったほうが、人々の心にも余裕があったような気がしますね。

現在では、かなり自主規制がすすんで、テレビなどでは、映画などの「出来上がった作品」を別にすると成人女性の乳頭は隠されます。男性の裸の尻や女児の下着などもイラストやモザイクなどで隠されることが多いですね。一方で、ネットにはそのものズバリの画像が出まくっています。結局、どんなになかったことにしようとしても、人間の根本にはエロ要素を求める欲望というか本能が厳然として存在しており、それが実際の行動に反映され、社会的に大きなムーブメントを起こしたります。

息子の嫁に手を出して、その結果生まれた子供(もちろん「戸籍上」は孫ですが…)を天皇にするために息子を退位させてしまう上皇。巨根を武器に時の女性天皇に取り入って、自分が天皇になろうとした道鏡。男性の急激な増加に対応するだけの女性がいなかったため、男色が当然のこととされた江戸初期。直近で言えば、パソコンの普及にもエロ動画や画像を見たいという欲求が大きく作用していたってのは事実ですね。

身分の貴賤や時代を問わず、エロ要素は人間の行動の大きな原動力となります。さて、今後エロ要素はどのような発展を見せ、それが人間の行動にどのような影響を及ぼし、社会的にはどんなムーブメントになるのか?現状を見る限りでは、欲望の対象が二次元の世界に向かった結果、人間関係の構築を苦手とする若者を数多く生み出すという現象を巻き起こしているようですね。これが少子高齢化を促進し、日本の国力が衰退していく、というのが漠然としたムーブメントのようです。いやはや。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-06-18 17:45 | 読んだ本 | Comments(0)

がっちりマンデー!! 知られざる40社の儲けの秘密

がっちりマンデー!!制作委員会(編集)/KADOKAWA

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TBS系日曜朝7時半から放送している『がっちりマンデー!!』のより抜き版。

私はこの番組結構好きで、用事がなければ大抵観ています。自分が奉職しているのとは違う業界の動向を知ることが興味深くもあり、また同業者のオハナシに関しては「あ、自分の所属している業界は世間からはこんなふうに観られているのか…」という客観性をも得ることが出来るからです。新興の企業もあれば、老舗の企業もあり、それぞれの儲けの仕組みは実に面白い。

儲かりの根本は、現実を冷静に見つめて、そのスキマを探し出して、いかにそこに特化していくのかということに尽きます。これは古今東西を問いません。一見、強固なシステムが出来上がっているようでも、日々変化する社会状況の下では、どうしてもそのシステムではカバー出来ない部分、すなわちスキマが生まれてきます。そこに、いかに気づき、そのスキマを埋めるための策を考え、実行するか?中でもポイントとなるのはいかに「実行するか」でしょう。

現実を見渡せば、何かしらのほころびは必ず見つかるはずですが、それを実際の経済活動に結びつけるまでには非常に高いハードルが待っています。

例えば、冒頭に紹介されている「ビィフォワード」という会社の設立は、社長がネットオークションに出品した国産の中古車をアフリカの人が買い上げたことがきっかけでした。そこから日本人が丁寧に乗った中古車は、日本では買いたたかれて大した利を生まないが、自動車産業が発達していない上に、自動車というモノへのニーズの高いアフリカならば大きな商売になると見抜き、そして現在では400億円を超える年商をほこる企業にまで育て上げたのです。

このオハナシは、盆の送りの際に、霊の乗り物に擬せられて川に流されたキュウリやナスを下流で集めて漬け物にして大儲けし、そこから大商人にのし上がった人物の逸話を彷彿とさせます。

普通の人が、気づいてはいるものの、手を出さないところに手を出し、工夫して利に変えていく…。う〜ん、その気で見渡せば世の中にはまだまだオイシイ部分は残っているのかもしれませんね。もっともそれを見いだすには、それなりの才覚が必要でしょうし、そこに向けて原資を集中する覚悟も必要です。残念ながら私には才覚も覚悟もないようです…。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-06-12 05:59 | 読んだ本 | Comments(0)

岳飛伝 六 転遠の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝の6巻目。

今巻では、「正統派」の岳飛伝での最大の敵役秦檜が、そのストーリー通りの憎まれ役として岳飛の前に立ちはだかります。秦檜は、岳飛を南宋軍の最高司令官として迎えるとともに、岳家軍を正式な軍隊として南宋に取り込もうとするのですが、岳飛はあくまでも軍閥として独立して活動することを望みます。最高権力者たる秦檜の命令に従わない岳飛は、南宋に対しての忠誠を秘めながら、従容として刑場の露と消える、というのが正統派のストーリー。

しかし、北方版は正統派通りにストーリー展開などしません。こんなところで主人公が死んでしまっては元も子もないってのもありますが、北方氏の大胆な翻案を楽しむのがこの大水滸伝の醍醐味。岳飛は表向き処刑されたこととされますが、実際は目立たぬように都から追放されます。秦檜は約束どおり岳飛を解放しましたが、その部下は後顧の憂いを断つために、暗殺団を送り込みます。ここで岳飛を救ったのは梁山泊の致死軍。久しぶりにこの集団が、暗躍でなく活躍する姿が描かれ、燕青も登場します。世間的には「亡くなった人物」となった岳飛はどこに向かうのか?梁山泊への合流となるのか?仮に合流となれば知も武も兼ね備えた、頭領にふさわしい存在になるとは思いますが、そうそうすんなりとは行きそうにないのもこの物語の特色です。

金国は兀述が岳飛との戦いを終え、世代交代を画策します。こちらの動きからも目を離せません。中原に覇を唱えることが悲願のこの国が南宋とどう対峙して、そしてそれは梁山泊軍にどのような影響をもたらすのか?今のところは、楊令とのつながりや物流により金と梁山泊は協力体制にありますが、世代交代後の金がどのような道を選択するのかについては、暗示すらもされていない状態です。

さて、我らが梁山泊は二強の直接対決を横目に、着々と力を蓄えている最中です。南越に甘藷糖の生産基地を建設した秦容が、その基地が大きくなるにつれて生じる「生活の諸問題」をいかに解決していくのか、を描きながら、狩猟採集から栽培定住の生活への転換、国というものの根本的な成り立ちとはどういうものかをも描いています。

以前、一時期ハマった水滸伝のシュミレーションゲームでも、実際の戦闘よりは、戦闘を開始する前の国力の充実(武器や食料の生産拠点の建設と発展)の方が楽しくなって、戦闘そのものはソフト任せにしていた(武器やら何やらを最大限に持たせておけば勝手に勝ってくれた)私にとっては非常に興味深い視点の転換です。もとより、梁山泊の志とは民が安心して暮らせる国とはどんなものかという問いに対しての答えを求めるものであったはず。で、南越の地に、一つの理想郷とでもいうべき村が出来上がるのです。戦いだけに生きてきた秦容が「文官」に転じるのも、武力革命を成し遂げた後の指導者の姿の一つの理想形だと思いますね。

シメの言葉はいつもと同じ。次巻の発売が待ち遠しい…。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-06-07 05:20 | 読んだ本 | Comments(0)



岳飛伝も巻を重ねること5冊目。この壮大かつ男臭い物語がだんだん終わりに近づいていくのが楽しみでもあり、さびしくもありというところですね。

さて、ストーリーは今までの流れに沿ったものです。南宋の軍閥岳飛軍と兀述とは相変わらず戦い続けています。一方で講和の動きがある反面、岳飛と兀述は直接対決し、「戦いのための戦い」を繰り広げることとなります。戦場では、川中島の上杉謙信、武田信玄よろしく一騎打ちに近いような場面すらあります。結果については直接本文を読んでください。単純に勝った負けたを論じるより、この戦いが両者にどんな影響を及ぼし、その結果として両国間にどのような関係性の変化が生じ、そしてそのことが我らが梁山泊にどのように波及してくるのか、を考えることがこの物語本来の楽しみ方であるはずです。

梁山泊軍は相変わらず高みの見物状態が続いています。しかしながら水面下では激しく動いてもいます。梁山泊軍の頭脳であり続けた呉用がついに亡くなり、「政治」の主体は宣凱に譲られることとなります。王貴の商業部隊は岳飛軍に糧秣を供給し続け、南越に渡った秦容は甘藷糖の製造に向け、着々と体制を整えていきます。

ここでやはり一番気になるのは秦容の動向ですかね。密林を開拓し、治水を行い、甘藷の栽培を本格化させる。農地の拡大や、甘藷糖の製造開始に当たって、増やすべき人物は梁山泊の活動から「引退」した人物たちを充当する。それでも足りない場合は現地の人々を採用したり、水牛を労働力に使うことを考えてみたり…。一種の福祉国家の建設ですね。日本で、源氏と平氏が争っている時代に、自由主義経済国家のみならず、老人の福祉までを考えた国家を出現させてしまうとは…。派手な事件ではなく、日常の着実な歩みこそが国の姿を作り上げる、という北方氏の哲学が見事に表されていますね。

そしてこの福祉国家を打ち立てるためにさまざまな問題に直面する秦容は、直接剣を振るうのとは違う形の戦いに臨んでいるという、気概を持ち始め、自らの求める「志」は今の生活にこそあるのでないかという心境にまで至るのです。荒くれヤンキーが農場経営に目覚めたってなところでしょうか。 来るべき「最終決戦」に向け、南宋、金国、梁山泊の三者がどのような変化をみせていくのか?次巻の発売が待ち遠しいですね。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-05-23 13:16 | 読んだ本 | Comments(0)

殿、利息でござる! [Blu-ray]

阿部サダヲ,瑛太,妻夫木聡,竹内結子,寺脇康文/松竹

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実話を基にした時代劇。タイトルからして、困窮した藩の財政をあずかる家臣がその立て直しを図る物語かと勝手に想像していましたが、さにあらず。

舞台は江戸中期の仙台藩領内の宿場町吉岡。宮城県在住5年余におよんだ私も恥ずかしながら初めて聞く地名でした。物語は茶商の菅原屋が京からその令室とともに帰郷するところから始まります。遠くから駆け寄ってくるのは吉岡宿の肝煎、遠藤。てっきり自分を歓迎してくれると思った菅原屋ですが、遠藤は令室が乗っていた馬を無理矢理に借り受けると、また走り去ってしまいます。前の宿場から物資の引き継ぎを受け、それを次の宿場に運ぶ伝馬役に使用する馬が足りなかったためでした。

このエピソードから、当時の吉岡宿を取り巻く苦難の状況がすべて語られる、というなかなか上手い導入部分でした。この時点ですでに吉岡宿は死にかけていたのです。

菅原屋は茶の栽培に腐心しながらも、宿場町の行く末に不安を覚えていました。そんな時に宿の居酒屋で、死を賭して上訴しようとしていた、造り酒屋穀田屋十三郎とたまたまあってしまいます。宿の行く末を考えると、酔ってなどいる場合ではないが、飲まずにはおれぬ、という不安な穀田屋の様子を阿部サダヲが上手く演じていました。酒席での気安さからか菅原屋は、藩主にカネを貸して、その利息分として伝馬役の費用負担を願い出る、という当時としては破天荒な策をあくまでもヨタ話として展開します。

ところが、このヨタ話を穀田屋が真に受けて、その実現のために走り出します。慌てた菅原屋は穀田屋を止めようと肝煎に相談しますが、肝煎も宿の行く末に気を揉んでおり双手を上げて大賛成。それでは、と大肝煎に話を持っていくと、こちらもこの話に感動して乗ってきます。ホンのちょっとした思いつきが様々な人を巻き込んで、思いつきの当人の意向とは全くズレて大きく大きく「成長」していく…。なかなか凝ったストーリー展開ですね。

プロジェクトの推進役こそ決まったものの、肝心のオカネのアテはないまま。言い出しっぺの菅原屋を始めとする「金貸し委員会」は私有財産を整理して何とかオカネを作り出しますが、彼らだけでは全然足りない。そこで、何とか仲間を増やそうと奮闘する姿がメインストーリーとなります。これだけなら、単なるコミカルな映画で終わってしまうのですが、最後には大きな人情話が待っています。この作品の原作である『無私の日本人』に感動した人が、制作の一翼を担った東日本放送勤務の娘にこの本を紹介し、そこから様々なエラい方々に感動の連鎖を呼んで、制作されたのがこの映画であるというエピソードがウィキペディアに出ていましたが、読む人読む人に感動を与えたであろう部分はこの人情話の部分であろうと思われます。とにかくいいオハナシなんです。

ストーリーとは無関係に、藩の財政の最高責任者を演じた松田龍平のマゲヅラの似合わなさが特筆もの。彼に関しては少々声が高いところもマイナスポイントかな?まあ、父親のイメージに引っ張られ過ぎてるってオハナシもありますがね…。その他仙台を舞台にしているということで地元の英雄羽生弓弦氏が最後に藩主役で登場したのも公開当初は話題となりましたね。なかなかの佳作だったと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-05-07 08:17 | エンターテインメント | Comments(0)

ブラック・ファイル 野心の代償 [Blu-ray]

ジョシュ・デュアメル,アンソニー・ホプキンス,アル・パチーノ,イ・ビョンホン,アリス・イヴ/松竹

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主役のジョシュ・デュアメルについては全く知らないまま、アンソニー・ホプキンスとアル・パチーノが出ているということだけで借りて来てしまったのが標題の作。クライムサスペンスだということも、観始めてから始めて知ったという、予備知識の全くないままの衝動借りでした。

物語は、アンソニー・ホプキンス演じるデニングの周りの状況説明から始まります。デニングは大きな製薬会社のCEOで、データのねつ造により死亡者がでてしまうほどの害のある薬を売り出しており、その訴訟問題に頭を痛めています。そんな彼の支えとなっているのは愛人のエミリー。そのエミリーが誘拐され誘拐犯からは身代金の要求が。犯人の指定場所である画廊に赴いたデニングは、接触を図って来た男を殴り倒してしまう…。

ここまでのシーンの後、時系列的には少々戻り、主人公ベン(ジョシュ・デュアメル)の状態を説明する描写に入ります。彼は看護師の妻を持つ弁護士で、その妻とは流産が原因でしっくり行っていない。相変わらず、ハリウッドはかならず家庭環境に問題のある主人公を出しますね。問題のある家庭環境が「普通」のこととなってしまっている社会環境に薄ら寒さを覚えてしまいますが、ストーリーの主題から外れるので、ここは一瞬の感想に止めておきます。そんなベンのSNSに、ある日、元カノからの友人申請が…。その元カノこそエミリー。エミリーは権力ずくで自身を愛人としたデニングには反発を覚えており、新薬のデータねつ造の事実を証明するデータの提供を申し出た上、妖艶な誘いもかけてきます。

ベンはまず妖艶な誘いにぐらつきますが、なんとか最後の一線までは越えませんでした。しかし、名誉欲や出世欲などには駆られてしまい、エミリーからデータの提供を受けることとなります。ベンの所属する弁護士事務所は敏腕弁護士として名高いチャールズ(アル・パチーノ)の経営するもの。ベンはチャールズに出所は少々ヤバいものの、信憑性の高いデータであることを納得させた上で、デニングとの対決に臨もうとするのですが…。

データを貰おうとエミリーの部屋を訪れたベンは、エミリーが遺体となっているのを発見します。ここから、時系列的にも行ったり来たりだし、人間関係を混乱させる人物も登場して来るしで、ストーリーはかなりカオスな状態となります。ですが、最終的には納得の結末に。どんでん返しが二回あるとだけ記しておきましょう。どのようなどんでん返しかは是非とも本作を鑑賞いただきたいと思います。

アンソニー・ホプキンスに若い女性が絡むと、ついついいきなり噛み付いてしまうのではないか?と考えちゃいますね。良きにつけ、悪しきにつけ、ハンニバル・レクター博士の役が強烈であることの証左です。アル・パチーノを観たのは非常に久しぶり。この作品は2016年に公開されたのですが、ずいぶんと老けた印象です。なによりも井上順そっくり。♫おっせっわにぃなりました〜、って歌い出しちゃうんじゃないかというくらいに似てました。そこで本当に歌ってくれたら大笑いをひっくり返しますが、それだと『新春隠し芸大会』のパロディードラマになっちゃうしなぁ…。

ストーリーはなかなかよく練られていましたが、仕上がり的には微妙な作品でした。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-05-07 06:43 | エンターテインメント | Comments(0)

人間はこんなものを食べてきた 小泉武夫の食文化ワンダーランド (日経ビジネス人文庫)

小泉 武夫/日本経済新聞社

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日経新聞の夕刊に連載中のコラム『食あれば楽あり』で、食材に関する蘊蓄と料理に関する美味そうな描写を楽しませてくれている農学者、小泉武夫氏のエッセイ集。本書では数ある異名のうち「味覚人飛行物体」を名乗り、主に日本各地で「食べ継がれてきた」食品にスポットを当てて、その魅力を描き出しています。

小泉氏の持論は、人間が長い間をかけて順応して来たその土地土地の気候風土にあった食べ物が一番おいしいということ。

日本人の食生活の根幹をなすのは米、魚介類、野菜、それに発酵食品であり、これらの食材を中心に食生活を組み立てることが、健康に一番効果的であると述べています。

私も齢50を超え、氏のおっしゃることが実感出来るようになりました。肉や、脂肪分とと糖分の塊であるケーキなんぞを食うと、その場は確かに幸せなのですが、数時間後ぐらいからジワジワと内臓が悲鳴を上げ始めます。で、その蓄積が風が吹いただけでも痛いなんて病気の発症につながったりもします。

歳はとりたくねーな、と思うしかない今日この頃ですが、私の場合は食う絶対量が多いということもあります。いかに日本人向きの食材で食事を工夫しても、量が多ければやっぱり不具合を起こしますね。

いい食材を使った料理を適度な量食べる、というのが一番健康であり、現在の世の中では一番贅沢なことなのではないかと思います。今やいい食材を探すのは至難の業ですし、値段も高くつきますからねぇ…。

しかしモノは考え様です。安いけれどカラダに悪いモノを食い続けて、結果カラダを壊して医療に高い金をかけるなら、多少は高くても健康につながる食品を食べ手いる方が結局は安いと言えるのかもしれません。何より、安全な食品は美味いはずです。元々食い物の美味い不味いは食ったら毒になるか否かを判断するものだったはずですから。

今後は少しづつでも、いいモノを手に入れてしっかり味わって食う、という方向に持っていきたいと考えています。とは言え、ついつい店頭に行くと、魚より肉を、高い良品よりは安い難あり品を買い求めてしまうのですがね…。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-04-29 21:06 | 読んだ本 | Comments(0)

稲盛和夫 最後の闘い―JAL再生にかけた経営者人生

大西 康之/日本経済新聞出版社

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京セラの創業者として有名な稲盛和夫氏が、経営破綻したJALに乗込んで、いかに内部を改革し、V字回復を成し遂げたかを描いたルポルタージュ。

経営破綻をした際のJALというのはお役所以上にお役所的な会社だったようです。アタマのいい経営陣が素晴らしい経営計画を作りはするものの、その計画を遂行しようと努力する者はなく、「達成出来なかった時のいい訳は超一流」という体たらく。内にばかり目を向けていて、本来なら一番向き合わなければならない顧客からも「笑顔ではあるが心がこもっていない接客態度だ」と評される始末。おまけにいろいろな組合が乱立して社内もバラバラ。破綻するべくして破綻したとしか言いようのない状態でした。

もちろん、素晴らしい社員はたくさんいたのでしょうし、与えられた持ち場の中で精一杯の努力をしていたのではあろうと思います。また、必要だとは思えない地域にまで空港を建て、空港がある以上は国の後ろ盾があるJALが飛行機を飛ばすのが当たり前だろ、という論調で、人が乗ろうが乗るまいが、飛行機を無理矢理運航させた上に、経営をまともに監査しなかった国や政治家たちにも、その罪の一端はあります。でもやはり一番悪いのは「最後は国がケツをふいてくれるさ」と高を括っていたJALの経営陣ですね。

さて、稲盛氏は高学歴でアタマがよく、それ故プライドも高い経営幹部を向こうに回し、小学校の道徳の授業でやるような、「人としての道」とか「やってはいけないこと」などの話から始めていきます。

拍子抜けとともに、「そんなことは知っている」として反発していた幹部たちですが、繰り返し繰り返し人の道を説く稲盛氏への賛同者は次第に増えてゆきます。

「人の道」を知識として知っているだけではなく、実践していくことにより、顧客に提供すべき航空会社のサービスとは一体なんなのか?という原点に立ち戻った行動を社員全員がとるようになり、より良いサービスを提供するためにはどうしたら良いのかを考え、行動する組織に生まれ変わっていくのです。

上から押し付けた「思想」は結局他人事であり、自らの意思には反映されませんが、自分自身が行動してつかみ取った哲学は自らの行動に大きく影響します。すべての社員が会社の再建を「自分のこと」と捕らえ直す意識改革により、数万人にも及ぶ解雇という文字通り血の出るようなリストラや、徹底的なコスト削減以上に奏功し、JALはV字回復を成し遂げます。

人を感動させるのはかけたコスト以上のサービスを提供すること。そしてそのサービスを生み出すのは一人一人の気持ちです。ナニワ節だといわれてしまえばそれまでですが、そうしたキモチを作り上げることの出来た稲盛氏の手腕には脱帽です。


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# by lemgmnsc-bara | 2017-04-29 20:45 | 読んだ本 | Comments(0)

岳飛伝 四 日暈の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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『岳飛伝』も四巻目となり、そろそろ各勢力の動きが活発化してきました。

まず、前巻で梁山泊と講和した金と南宋随一の軍閥岳飛軍とが激突します。互いに「大将」のクビを獲れば勝利であると確信し、主力の兵とは別の動きで、金軍の大将兀述の親衛隊と、岳飛が自ら率いる一隊が真っ向勝負に出ます。決して言葉の数が多い訳ではないのですが、的確な描写で精鋭同士の戦いをリアルに描ききっています。さすがはハードボイルドの第一人者。男臭い戦いの描写は他に比肩する者のない素晴らしさです。ただ、私の乏しい想像力では、イメージしきれない場面も多々ありましたので、誰か映像化してください!!もっともこのリアルさを実写化するのはほぼ不可能でしょうから、コミックかアニメにするしかないでしょうけどね…。

戦いは一進一退で、まだどちらに転ぶか全くわからない状態です。

さて、この両者の戦いに高みの見物を決め込むカタチとなっているのが梁山泊軍。彼らは目先の戦いではなく、もっと遠くを見据えた戦いを進めています。南越に行った秦容は新たな産物としてイメージしている甘藷糖を製造するため、その原料となる甘藷を栽培するための農地の開墾を粛々と進めていきます。栽培のための土地を見いだし、その地の治水を行う過程で、土地の人々との交わりも生まれてきます。この交わりで梁山泊軍にかかわることのなった人物たちが織りなすドラマにも期待が膨らみますね。

梁山泊軍の志の達成のための支えとなるのは「力」、そしてその力の源泉は「物流」だというのもこの物語の一つのテーマです。秦容の戦いがどのように梁山泊の力となっていくのか?そしてその力は三つの勢力の争いに、そして国の民にどのような影響を与えていくのか?まだまだ興味は尽きません。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-04-25 09:32 | 読んだ本 | Comments(0)

プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)

田口 壮/幻冬舎

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昨シーズンは、ファーム、交流戦、シーズンとすべて最下位という「完全最下位(史上初の怪挙…)」を達成してしまったオリックスバファローズ。毎年外国人選手には大枚をはたくし、T−岡田という和製大砲はいるし、中継ぎ、抑えの勝利の方程式もそれなりに整っているのに、何故か勝てずに低迷期に突入しています。今シーズンはいきなり5連勝するなど、好調な滑り出しですが「いつ、この勢いが止まってしまうんだろう」という不安を常に感じさせているのが、この球団の特色ですね。

このオリックスというチームが最高に輝いていたのはブルーウエーブというニックネームだった1990年代半ば頃。イチローが大ブレークして打線を引っ張り、投手のコマも豊富だったところに名将の仰木彬氏が監督に就任し、二年連続してシーズン優勝。二年目の優勝時は阪急ブレーブス時代からの宿敵巨人を破って日本一にも輝いています。

本書の著者であり、現在オリックスバファローズの二軍監督でもある田口壮氏はこの黄金時代に堂々たる主力選手として活躍していました。そしてその時代の実績を引っさげてMLBへと打って出た田口氏は、貴重なバイプレーヤーとしての存在感を醸し出し、日本人としては初となるワールドシリーズ制覇を含め、二度のアメリカNo.1に輝いています。

数々の輝かしい実績はさすがにドラフト1位指名を受けた期待の選手だ、と言いたいところですが、氏の選手生活は必ずしも順調なモノではありませんでした。打撃と走塁には長けていたのですが、遊撃手としての守備、特に送球がメタメタで、一時はゴロを捕った後、一塁への送球ができない「イップス」という状況になったこともあったそうです。ちなみにこの「イップス」って言葉が一般化したのも田口氏の「功績」の一つだと思いますね。それほど深刻な問題でした。この症状が重症であったが故に外野手へとコンバートされ、結果的にはこのコンバートは奏功するのですが、田口氏には未だにショートというポジションに対してのこだわりがあるそうです。

また、渡米後は一軍半的な存在で、メジャーとマイナーを行ったり来たりした期間が長かったようですね。そしてこのアメリカのマイナーを経験したことが、この本を書く大きなモチベーションともなったようです。

氏の記述によれば、共に新戦力を見いだすことと、主力選手に調整をさせることが主目的の組織ながら、日米の二軍はまったく対照的です。

日本の場合は二軍であっても基本的には球団がすべて衣食住を提供してくれた上で、野球に打ち込める環境を作ってくれますし、よほどのことがない限り、いきなり契約を打ち切られることはありませんが、米はマイナーだと衣食住すべてを自分が確保しなければならないし、能力がないとみなされれば、今この瞬間に契約打ち切りになるということも珍しくないそうです。

各人が持ちうる文化的背景が比較的均一に近い日本と、人種のるつぼと言われ、人種も言語も宗教も全く異なる人々の集まりである米との文化的な相違が感じられるオハナシですね。

どちらの方法が良いのかは一朝一夕で結論の出せるオハナシではありませんが、米のような、文字通りのハングリーさを乗り越えた選手の方が「緊迫した場面」でのプレッシャーには強そうな気はしますね。

さて、彼我の相違を知る田口氏は、現在の与件の中でどうやって「一軍に奉仕する」組織である二軍を率いていくのか?

オリックスの二軍はウエスタンリーグに所属しており、西日本が活動の場となるため、関東在住の身としてはなかなかその動静が詳しくは伝わってきません。結局は一軍に新しい選手をどれだけ送り出したかで判断するしかないのですが、T−岡田のような「大化け」した選手を一人でも多く一軍に送り込んで欲しいな、とは思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-04-09 17:56 | 読んだ本 | Comments(0)

『ア・ホーマンス』鑑賞

ア・ホーマンス [DVD]

松田優作,石橋凌,手塚理美,ポール牧,阿木燿子/TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

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故松田優作氏の初監督作品。新宿を舞台に、ヤクザ同士の抗争とそこに関わる謎の男の姿を描いています。

松田優作演じるのは、主人公「風(ふう)」。彼は記憶をなくしているという設定で、バイクに乗って新宿にやって来て、浮浪者のたまり場近くに住みつきます。独特の威圧感を持つ彼の周りには、その威を借りようとする浮浪者たちが恐々近寄ってきますが、彼はまったく相手にしません。やがて、新宿を拠点とする大島組のヤクザ山崎にその威圧感を見込まれ、組の経営するデートクラブのボーイとしての職を得ることとなります。

そんな折、大島組の組長が、対立する旭会のヒットマンに襲撃され死亡するという事件が起きます。この辺は、映画公開当時世間を賑わしていた、巨大暴力団同士の扮装を彷彿とさせます。また、当時の新宿は、そんな血なまぐさい事件が勃発してもおかしくないような危うさが漂ってもいました。親分さんたちが派手にカネをばら撒いて遊んでたりもしましたね。特に夜の歌舞伎町は賑わいとともに、その裏の闇の濃さを濃厚に感じさせてくれる場でもありました。その辺の雰囲気はよく出ていたように思います。

親を殺されたら、そのカタキは自分の命に代えても討たなきゃならないのがヤクザの世界。しかし、大島組の「後継者」藤井(故ポール牧師匠が、コミカルな中にも残虐さと冷徹さを併せ持つインテリヤクザを怪演しています!)は相手のトップではなくナンバー2の副会長への報復を指示。どうやら藤井は裏で旭会とつるんで表向きは共存共栄を目指す方針のようです。この藤井の方針に納得いかないのが山崎。彼は単身で旭会会長の命を狙います。そしてそこに風は助太刀として参戦するのですが…。というところで久しぶりの逃げ口上。この先は本編をご覧ください。

全体に、不思議な緊張感の漂う作品でした。今にも大爆発しそうな予感があるのに、決して爆発しない。俗に言う「嵐の前の静けさ」ってやつがずーっと続きます。それこそ本当に最後まで。結局観る側の期待も予測もすべて裏切る結末が待ち受けているんですが、一言で言えば拍子抜け。あれだけ引っ張った緊張感はナンだったんだ?という感想を持つしかない結末です。アクターとしての松田優作に求められていた「雰囲気」はたっぷり味わえたものの、作品としては欲求不満の残る不思議な一作でした。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-04-07 20:19 | エンターテインメント | Comments(0)